相続税は、相続または、遺言に沿って財産を贈る遺贈によって亡くなった方の財産を取得した際、その財産にかかる税金をいいます。資産の再分配などが目的とされ、受け継ぐ財産が多いほど税率が上がる仕組みです。
適切な財産の把握と計算方法への理解が欠かせないため、本記事では計算例を挙げながら相続税の計算方法をわかりやすく解説します。相続税の負担を軽減する税額控除も紹介しますので参考にしてください。
目次
そもそも相続税とは
相続税は亡くなった方の財産を配偶者や子どもなどが受け継ぐ際に納める税金であり、亡くなった方を被相続人、財産を受け継ぐ方を相続人といいます。
財産には、金融資産や不動産所有権などの権利や借入金返済などの義務が含まれ、日本に住所がある相続人は相続財産の所在地にかかわらずすべての財産に相続税がかかるのが原則です。
相続した財産の額が、基礎控除額を超えると相続税がかかる可能性があります。基礎控除額の計算式は以下のとおりです。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
法定相続人とは、民法で定められた被相続人の財産を相続できる人です。被相続人の配偶者のほか、子どもや孫、親、兄弟姉妹などが法定相続人に当たります。
配偶者は常に相続人となりますが、子や親などの血族は次の順序で配偶者と共に相続人になれます。
- 第1順位:子ども(子どもが死亡している場合は孫)
- 第2順位:父母や祖父母
- 第3順位:兄弟姉妹
相続税の課税対象
相続税の課税対象となる財産は、以下のようなものがあります。原則として、金銭的に見積もることができる価値があるものすべてです。
相続税の対象となる遺産の例
現金 預貯金 有価証券 宝石 土地 家屋 貸付金 特許権 著作権など
上記に加え、以下の財産も相続税の対象になります。
上記以外で相続税の対象となる例
- 死亡退職金や生命保険金(みなし相続財産)
- 被相続人の死亡前3年以内に被相続人から贈与を受けた財産(2024年1月1日以降の贈与からは7年以内に贈与を受けた財産)
- 被相続人の生前に相続時精算課税の適用を受けて贈与を受けた財産
以上の三つは本記事の相続税の計算方法を解説する項目でそれぞれ説明します。
一方で、次のような財産は相続税がかかりません。
相続税がかからない財産の例
墓地 墓石 仏壇 常識的な額の弔慰金 事故等の損害賠償金 国などに寄付した相続財産
以上を踏まえて計算した財産額から、被相続人の借入金などの債務や葬儀のために負担した費用を差し引き、相続税の課税対象額をもとめます。
相続税の計算方法を解説
ここからは、具体的な例を示しながら相続税の計算方法を解説します。計算の流れは次のとおりです。
手順1:遺産の合計額をもとめる
手順2:生前贈与加算の対象となる贈与を加算する
手順3:相続時精算課税制度の贈与を加算する
手順4:基礎控除額を差し引く
手順5:法定相続分で取得額を計算する
手順6:税率を用いて計算する
手順7:実際の取得割合を元に計算する
手順8:2割加算の対象者の税額を計算する
手順9:税額控除を差し引く
一つずつ解説します。
手順1:遺産の合計額をもとめる
遺産の合計額算出が、相続税を計算するためにまず必要となる作業です。現預金や有価証券、不動産など被相続人の財産額を合計します。この際、死亡退職金や生命保険金も、みなし相続財産として合算します。
みなし相続財産とは、被相続人が保有する財産ではないものの、亡くなることによって相続人が受け取り、相続財産とみなされる財産です。相続人が取得した死亡退職金や生命保険金の合計額がそれぞれ非課税枠を上回らなければ、相続税は課税されません。非課税枠の計算は次のとおりです。
非課税枠=500万円 × 法定相続人の数
配偶者と長男と長女が相続人になるケースで具体的に遺産の合計額をもとめてみましょう。
財産の種類 | 相続財産の評価額 |
現預金 | 2,000万円 |
有価証券 | 2,000万円 |
不動産 | 9,000万円 |
生命保険金 | 1,000万円 |
墓地 | 300万円 |
遺産の合計額 | 1億4,300万円 |
以上のケースで遺産の合計額は1億4,300万円となりますが、墓地(300万円)は相続税がかかりません。さらに、相続人がみなし相続財産である生命保険金を受け取る場合は非課税枠があります。非課税枠は500万円×法定相続人の数で、今回の例では1,500万円(=500万円×3人)です。よって、今回の生命保険金1,000万円分は相続財産の評価額から除きます。
このため、相続税の対象となる財産額は次の計算のとおり、1億3,000万円となります。
相続税課税対象額=1億円4,300万円-墓地300万円-生命保険金1,000万円=1億3,000万円
手順2:生前贈与加算の対象となる贈与を加算する
次に、生前贈与加算の対象となる贈与を加算します。生前贈与加算とは、被相続人が亡くなる前の3年以内に財産を相続人に贈与していた場合、生前贈与がなかったものとして贈与時の財産の時価を遺産合計額に足して相続税を計算することをいいます。
贈与税は原則として、贈与を受ける額が年間110万円以下なら課税されません。このため、相続までに年間110万円までの贈与を行っていくことで、相続財産を減らして納める税金を抑えることが可能になります。
生前贈与加算は、このように相続財産を減らす目的の贈与を防ぐ狙いなどから設けられた制度です。2023年度税制改正により、2024年1月1日以降の贈与から、生前贈与加算の期間が3年から7年に延長され、より厳格化されることが決まっています。
なお、贈与した際に贈与税を納めた場合は、相続税額から贈与税額を控除します。死亡前3年以内の贈与でも、相続や遺贈で財産を受け取っていない場合は生前贈与加算の対象外です。
手順3:相続時精算課税制度の贈与を加算する
遺産合計額への加算項目として、相続時精算課税制度の贈与もあります。相続時精算課税制度は、贈与を受けた人がその時点では贈与税を納めず、贈与した方が亡くなり相続が発生した際に、贈与を受けた財産と遺産合計額を合算して相続税を計算できる制度です。
適用対象となるのは、贈与する側は贈与した年の1月1日時点で60歳以上の父母や祖父母、受贈者は贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上(2022年3月31日以前の贈与なら20歳)の子や孫です。制度は贈与額が計2,500万円に達するまで活用できます。
この制度を使う場合、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日の間に申告書を提出することが必要です。制度を選択すると、その選択に係る贈与者から贈与を受ける財産については、それ以降すべてこの制度が適用されることになります。
手順4:基礎控除額を差し引く
遺産の合計額を計算した後は、基礎控除額を差し引きます。基礎控除額は次の式で計算します。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
遺産の合計額より基礎控除額の方が大きい場合は、相続税は発生しません。このとき、原則として相続税の申告を行う必要もありません。
手順1で示したケースでは、配偶者と2人の子どもが法定相続人でしたので、基礎控除額を計算した例は次のとおりとなります。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人3人=4,800万円
手順1の例では相続税を計算する基準となる財産額は1億3,000万円ですので、基礎控除額を差し引いた後の相続財産は8,200万円となります。
基礎控除額を差し引いた後の相続財産=1億3,000万円-4,800万円=8,200万円
手順5:法定相続分で取得額を計算する
基礎控除額を差し引いた後の相続財産について、相続人が法定相続分のルール通りに相続した場合のそれぞれの取得額を計算します。一般的には、法定相続分に基づいて遺産の分け方を話し合います。
法定相続分のルールは民法に以下のように定められています。
配偶者と子または孫が相続人 | 配偶者2分の1、子または孫全員で2分の1 |
配偶者と父母または祖父母が相続人 | 配偶者3分の2、父母または祖父母全員で3分の1 |
配偶者と兄弟姉妹が相続人 | 配偶者4分の3、兄弟姉妹全員で4分の1 |
子や父母など配偶者以外の法定相続人が複数いる場合、原則としてそれぞれの相続分が等分されます。
手順4の例で計算した相続財産8,200万円について、配偶者と2人の子どもで法定相続分に沿って計算した取得額は次のとおりです。
配偶者の法定相続分=8,200万円÷2=4,100万円
長男の法定相続分=8,200万円÷2÷2=2,050万円
長女の法定相続分=8,200万円÷2÷2=2,050万円
手順6:税率を用いて計算する
法定相続分のルールに沿って分けた取得額に応じた相続税の金額を計算します。
相続税率と控除額の一覧は次のとおりです。
相続税の速算表
法定相続分に応じた取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | ― |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
出典:国税庁「相続税の税率」
手順5で算出した法定相続分に応じた財産額を上記の表にあてはめると、次のとおり税額が計算できます。
配偶者:4,100万円×20%-200万円=620万円
長男 :2,050万円×15%-50万円=257.5万円
長女 :2,050万円×15%-50万円=257.5万円
手順7:実際の取得割合を元に計算する
次に、遺産分割協議や遺言書によって実際に取得した財産額に応じて、相続税額を分配していきます。
ここでは、配偶者と長男がそれぞれ40%、長女が20%の割合で相続財産を取得した場合を想定します。
手順6の計算によると、相続税の総額は1,135万円(=620万円+257.5万円+257.5万円)でした。この1,135万円を実際の取得割合に応じて分配します。
配偶者の相続税額=1,135万円×0.4=454万円
長男の相続税額=1,135万円×0.4=454万円
長女の相続税額=1,135万円×0.2=227万円
相続税の総額を計算する際、はじめから実際にそれぞれ相続人が取得した財産額に相続税率をかける方が簡単に思えます。しかし、財産額によって税率が異なる相続税の計算上、財産の分配割合によっては同じ相続でも相続税の総額が異なる場合もあります。
分配割合で納める税金の総額を調整できるとなると税の公平性が歪められる可能性があることから、一律で法定相続分に基づいて税の総額を決めることになっているのです。
手順8:2割加算の対象者の税額を計算する
相続税額を確定したら2割加算の対象者の税額を計算します。相続税の2割加算とは、相続財産を取得した人が、被相続人の配偶者と一親等の血族(子ども、父母)以外の場合、その相続人の相続税額が2割加算される制度です。なお、一親等の血族には、子どもが既に亡くなり、孫が相続人となる代襲相続人も含まれます。
例えば、相続税の計算の結果、被相続人の配偶者の相続税額が500万円、被相続人の妹の相続税額が300万円だった場合、配偶者の500万円には加算がありませんが、妹の相続税額は300万円に2割上乗せされた360万円となります。
手順9:税額控除を差し引く
相続税をもとめる際、相続財産から一定額を差し引いたり、税額から控除したりといったように、税負担を軽減できるルールがあります。ここでは、主な制度を紹介します。
配偶者控除
被相続人の配偶者が相続人となった場合は、1億6,000万円または配偶者の法定相続分のどちらか多い金額を、取得した遺産額から控除できます。内縁の場合は対象外です。相続税の申告期限までに遺産分割されていることが適用条件となります。
手順1以降で想定したケースでは、そもそも遺産の合計額が1億4,300万円となっており、配偶者の取得割合が1億6,000万円を上回ることはないため、配偶者は相続税を納める必要がありません。
未成年者控除
相続人が未成年者の場合、満18歳になるまでの年数(1年未満は切り上げ)に10万円をかけた金額を控除できます。相続財産を取得した時点で18歳未満であることや法定相続人であることなどが適用条件です。
障害者控除
相続人が障害者の場合、相続税額から一定の金額を控除できます。障害者控除の額は、その相続人が満85歳になるまでの年数(1年未満は切り上げ)に10万円をかけた金額です。85歳未満であることや法定相続人であることなどが条件となります。
贈与税額控除
手順2の生前贈与加算で説明したように、相続開始前3年以内に被相続人となる人から贈与された財産がある場合、相続税の課税価格に、贈与を受けた財産額を加算することになっています。この際、加算された財産に対応する贈与税額を加算された人の相続税額から控除できるのが贈与税額控除です。
相次相続控除
相続開始前10年以内に被相続人が相続や遺贈で相続税を納めていた場合、その被相続人から相続や遺贈で財産を取得した人の相続税額から一定額を控除できる制度を、相次相続控除といいます。
前回の相続で納めた相続税額のうち、1年につき10%の割合で減額させた金額を、次の相続にかかる相続税額から控除する計算を行います。計算式は以下のとおりです。
A:被相続人が前の相続の際に課せられた相続税額
B:被相続人が相続した際に相続税の対象となった財産額
C:今回の相続で相続税の対象となる財産額
D:相次相続控除額を計算する相続人の財産額
E:前の相続から今回の相続までの期間(1年未満は切り捨て)
相続税がかからなくても申告が必要なケースとは
遺産の合計額が基礎控除額を下回っていれば申告の必要はありません。ただし、相続税額がゼロでも申告が必要になるケースがあります。
申告が必要なケースとしては、配偶者控除を適用して税額がゼロになる場合や、小規模宅地等の特例を受ける場合などです。
小規模宅地等の特例とは、自宅の土地や事業用地などについて、一定の面積内で評価額を最大80%減額できる制度になります。
まとめ
相続税を適切に申告するには、その計算方法をしっかり理解しておくことが大切です。遺産総額を把握するのはもちろん、法定相続人や基礎控除、過去に受けた贈与額などに関する理解が欠かせません。
突然の相続にあわてないようにするためにも、税額を計算する順序や税額控除について学び、家族内で話し合う必要もあるでしょう。財産額が高額な場合や複雑なケースでは、税理士などの専門家に相談することもおすすめします。
監修者
藤原 正明/大和財託株式会社 代表取締役CEO
昭和55年生、岩手県出身、岩手大学工学部卒。
三井不動産レジデンシャル株式会社で分譲マンション開発に携わり、その後不動産会社で収益不動産の売買・管理の実務経験を積む。
2013年に大和財託株式会社を設立。収益不動産を活用した資産運用コンサルティング事業を関東・関西で展開。
中小企業経営者、土地オーナー、開業医・勤務医、高年収会社員などに対して多様な資産運用サービスを提供している。
自社設計施工により高品質ローコストを実現している新築1棟アパート・マンション、中古物件のリスクを排除した中古1棟リノベーション物件、デジタルテクノロジーを活用した不動産小口化・証券化商品、利益最大化を実現する賃貸管理サービスなどを、顧客のニーズに合わせて組み合わせて提案できることが強みである。
資産運用領域で日本No.1の会社を目指し日々経営にあたっている。
マッスル社長としてYouTubeでも活躍中。
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