マンションの管理費・修繕積立金の滞納率はどれくらい?対処方法を具体的に解説

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マンションの管理費や修繕積立金は、マンションの日常的な管理や状況に応じた修繕によって、快適な生活と資産価値を確保するための費用です。マンションの管理組合員が毎月納めるよう定められているこれらの費用は、滞納されてしまうと修繕が予定通りに進まず、住民同士の関係性にも悪影響が及ぶ可能性もあるため、早期に回収すべく対策を取る必要があります。

本記事では、マンション住民に管理費・修繕積立金を滞納された場合の対処法について解説します。マンション管理に欠かせないこれらの費用の滞納を未然に防ぐためのポイントもあわせて見ていくので、ぜひお役立てください。

マンションの管理費・修繕積立金の滞納は増加傾向にある問題

マンションの管理費や修繕積立金の滞納は、年々増加傾向にあることが国土交通省のデータで明らかになっています。国土交通省の「平成30年度マンション総合調査結果」では、管理費等の滞納をしている人がいるマンションは、調査対象のマンション全体の24.6%にも上ります。

中でも、築年数の古いマンションにおける割合が特に高い傾向が見られます。平成25年度に比べると、平成30年度の割合の方が低いとはいえ、全体の4分の1が数ヶ月に渡って滞納しているという事実は、重大な問題でしょう。

滞納が増えている理由とは

マンションの管理費や修繕積立金を滞納してしまう理由としては、「うっかり支払うのを忘れてしまった」「収入が減ってしまい支払いが困難だった」などさまざまなものが考えられます。ここでは、マンション管理費や修繕積立金を滞納する主要な理由を3つ紹介します。

経済の低迷

長期的な経済の低迷により、マンションの管理費や修繕積立金が支払えず、滞納している場合があります。長期的な収支計画を立ててマンションを購入したものの、世帯収入が思うように得られず、支払いできない状況に陥るケースです。

コロナ禍や世界情勢などの影響もあり、この傾向は今後さらに拍車がかかる可能性も懸念されています。

平均寿命の長期化

高齢化社会とともに平均寿命が長期化していることも、滞納の増加に影響を及ぼしています。老後資産の不足を懸念する人が、将来の貯蓄に資金を多く回すことでマンション管理費等の支払いができなくなってしまうケースなどが考えられます。

親族間の関係性の変化

親族間における関係性の変化や希薄化も、滞納が増加する要因の1つとして考えられます。親子が別々に暮らしている場合、高齢の両親が暮らすマンションの管理費等を滞納していることに子世帯が気づかず、支払われない状態が続いている可能性も少なくないでしょう。

住民に管理費・修繕積立金を滞納されるリスクとは

マンションの管理費や修繕積立金が滞納されてしまった場合、どのような問題が発生するのでしょうか。ここでは、滞納によって起こりうる主な2つのリスクについて解説します。

マンションの修繕計画が狂ってしまう

マンションの管理費や修繕積立金の滞納による最大の問題は、マンションの修繕計画に狂いが生じることです。マンションはエントランスやエレベーター、外壁などといった共用部分が多く、マンションの区分所有者(住民)全員で管理することが原則とされています。

管理費や修繕積立金は、マンションに住む人が快適に暮らせるよう、日常的な管理や必要に応じた修繕を行うための費用です。滞納があるとこれらの費用が不足して、全体の修繕計画に支障を来たす可能性があります。また、建物や設備の老朽化が進み、資産価値も下がってしまうリスクも考えられます。

住民同士の人間関係に悪影響が出る

マンションの必要経費の滞納は、住民同士の人間関係にも悪影響を及ぼす可能性があります。本来であれば、住人全員からの徴収分によって管理や修繕が成り立つものの、滞納によって費用が不足すると他の住民に迷惑がかかります。

また、一部の住民が支払っていない状況が不公平感を生んでしまいます。滞納による不足分を追加徴収によって補う場合、決められた通りに毎月支払っている住民からすれば「なぜ滞納者のぶんまで負担しなければならないのか」と不満を感じるでしょう。

最悪の場合、「自分も支払いを拒否する」という住人が出てきて、滞納の連鎖につながることも考えられます。

管理費・修繕積立金の滞納を解消する方法とは

マンションの管理費や修繕積立金の滞納は、重大な問題に発展する可能性があり、万が一発生してしまった場合には早めの対策が必要です。ここでは、管理費などの滞納を解消するために実行すべき手段について解説します。

督促する

滞納が発生したら、まずはマンションの管理理事会で報告を行い、口頭や手紙を通して滞納者に支払いを督促します。単なる支払い忘れや、銀行口座の変更による引き落としエラーといった可能性も考えられるため、マンション内での人間関係を考慮して、穏便に済ませられる方法でお知らせするのが無難です。

多くの場合、マンションの管理会社の委託契約内容に督促に関する事項が含まれており、管理会社から滞納者に連絡が入ります。ただし、管理会社に任せっきりにせず、理事会でも状況を把握するために進捗報告を依頼しましょう。

なお、これらの簡易的な督促は、滞納期間が短く、滞納額もさほど大きくない段階で有効とされます。

催告書を送る

口頭や手紙による督促に応じてもらえない場合は、管理組合から内容証明郵便で催告書を送付します。内容証明郵便は、誰から誰に向けて、いつどのような書類が送られたのかを郵便局が公的に証明してくれる郵便です。

法的措置も考慮していることを伝える手段として使われるものであり、滞納者が事態の深刻さを理解し、支払いに応じる可能性が期待できます。また、内容証明郵便による催告は、滞納者への請求権利行使を公的に証明できるため、後で説明する「消滅時効」の成立による請求の解消を避けられます。

裁判所を通して支払督促を行う

内容証明郵便による催告書を送っても、滞納者が支払わないのであれば、裁判所を通して「支払督促」を行います。支払督促とは、家賃や給与などの支払いが行われない場合に、申立人による申立てに基づいて、簡易裁判所の書記官が債務者に支払いを命じる手続きです。

裁判所に出廷する必要はなく、督促申立書を簡易裁判所に提出するだけで手続きができます。マンションの管理費や修繕積立金の滞納の場合、管理組合が申し立てをし、裁判所が滞納者に対して滞納している金額の支払いを命じるのが一般的です。

支払督促では、滞納者には「いつまでに、滞納している管理費・修繕積立金を支払うこと」という支払督促の文書が裁判所から送られます。滞納者が文書を受け取ってから2週間以内に異議の申し立てを行わない場合、管理組合は仮執行の申し立てが可能です。

仮執行の申し立てが承認されると、滞納者には「仮執行宣言付支払督促」が送付されます。さらに異議が出されない、あるいは滞納分の支払いがない場合は、確定判決と同様の効果を得られることとなり、申立人である管理組合は滞納者の財産差押えなどの強制執行を行うことが可能です。

一方、書類受け取りから2週間以内に滞納者より異議が出された場合は、裁判へと移行します。

訴訟を起こす

裁判所からの支払督促を送っても滞納者が支払いの意思を見せない場合には、訴訟も検討すべきでしょう。マンションの管理費や修繕積立金の滞納についての訴訟では、管理組合が原告となって提起することが可能です。なお、裁判所からの支払督促に対して、滞納者が期限内に異議申し立てをした場合にも、訴訟を起こすこととなります。

裁判では、弁護士を立てることは決まりではありませんが、訴状の作成や裁判所への出頭に加えて、法的に適切な主張をする必要性があるため、弁護士に相談するのが得策です。

なお、滞納金額が60万円以下の場合は、少額訴訟を利用できます。「少額訴訟」とは、60万円以下の支払請求に対する訴えを起こした場合に、簡易裁判所で審理を行える制度です。少額訴訟では原則審理は1回で終了し、当日中に判決が言い渡されます。

一般的な裁判では、請求額が140万円以下であれば簡易裁判所、それ以上の金額だと地方裁判所の管轄です。裁判を通して管理組合側の請求が認められると、強制執行に進みます。

競売請求を検討する

裁判での確定判決が出ても、なお滞納者が滞納している金額を支払う見込みがないと判断される場合には、財産の差押えの他に、区分所有法第59条による競売を申し立てるという選択肢があります。

この競売とは、滞納者の所有するマンションを強制的に売却することです。区分所有法では、特定の区分所有者の特定の行為が原因で、他の住民に著しく障害を与え、共同生活の維持を困難にしている場合に、管理組合は該当者が所有する区分所有建物の競売を請求できるとされています。

通常、マンションには抵当権が設定されていますが、当該マンションの時価を超えた抵当権がかけられていても競売をすることが可能です。新たな所有者が決定すると、管理費・修繕積立金の支払い義務も物件とともに引き継がれ、新しい所有者へ滞納分を請求できます。

管理組合による総会にて、全区分所有者及び議決権の4分の3以上の賛成を得ることで、競売を実施できます。ただ、競売にかけても購入者が決まるとは限らず、滞納額が多いほど競売による売却は難しくなる傾向があります。そのため、できるだけ早く臨時総会を開き、競売について決断する必要があるでしょう。

管理組合で滞納分を請求する手順とは

ここからは、管理組合で滞納者への請求を行う際の進め方について紹介します。裁判所からの支払督促や訴訟へ発展する前に、滞納者に支払ってもらうためにも、ここで適切な手順を押さえておきましょう。

1.理事会で決議を行う

管理組合の理事会にて、滞納に関する対応方針について話し合いを行います。先述の区分所有法では、マンションの共用部分の管理については、集会の決議で決めることが定められています。

管理費や修繕積立金は、共用部分の管理に関わる事項であり、滞納に対してどのように対応するのか、まずは理事会で話し合います。理事会では、滞納者への取り立ての計画を作成し、総会に提出する議案としてまとめます。

2.総会で議案を決議する

理事会で作成された滞納に対する対応計画の議案について、総会にて管理組合全体の決議を取ります。議案の内容が管理組合の正規の請求方法として決定されるためには、総会で議決権総数の過半数の賛成が必要です。

決議の際には、弁護士に依頼する場合の費用など、具体的な見通しを事前に共有しておく必要があります。ただ、管理費や修繕積立金の滞納があった場合の請求や対応について、管理規約内で「理事会の決議のみで訴訟提起を行える」といった規定がある場合は、総会での議決は不要です。

3.計画に基づき法的手続きを進める

総会で議決された請求計画に基づき、請求を行います。滞納期間が短い場合は、理事会からの口頭や手紙による督促から実施しますが、支払いに応じる見込みがないと判断できる場合には、先述した内容証明郵便や裁判所を通した支払督促、訴訟といった法的手続きを取ることになります。

4.差し押さえ

法的措置による確定判決が出た後も、滞納者からの支払いがない場合には、財産の差し押さえが可能、というのが先述の区分所有法第59条の規定内容です。差し押さえの対象となるのは、滞納者の銀行預金や自動車などの所有物、滞納者が所有するマンションの住戸、滞納者の勤務先に対する給料債権などです。

差し押さえは、管理組合側と滞納者自身両方にとって大きな労力を必要であり、いずれも望まない事態でしょう。重大な状況へ進展させないためにも、法的措置に応じない場合どのような問題に発展するのかを、滞納者へ前もって知らせておくことも大切です。

管理費・修繕積立金には時効がある

マンションの管理費や修繕積立金には、時効が設定されています。マンションの管理費等の場合、権利を行使できることを知った時から5年、つまり支払い日から5年が時効です。

滞納に対して請求せず放置してしまうと滞納者側の「消滅時効」の援用が可能になってしまいます。消滅時効とは、権利を行使せずに一定期間が経過した場合、その権利を消滅させる仕組みのことです。

時効が成立する前に滞納分を回収できるのが一番ですが、滞納が続く可能性もあるため、時効を成立させないための対策を取る必要があります。いくつかの方法が考えられますが、ここでは代表的な手段である「時効の完成猶予」を紹介します。

時効の完成猶予

「時効の完成猶予」とは、一定の事由により、期間内は時効が来ても時効が完成しないという規則のことです。例えば、時効まで残り1ヶ月の時点で時効の完成猶予事由の一つである催告を行うことで、催告から6ヶ月間は時効の完成が猶予されます。つまり催告できる期間が延長されます。

管理費・修繕積立金の時効が過ぎれば、請求がなければ滞納者は消滅時効を援用でき、滞納分の請求を解消することが可能です。そうなると費用を回収することは二度とできなくなってしまうため、催告の事実が必要です。

管理組合から内容証明郵便で催告書を送付しておけば、滞納者への請求権利行使を行った事実が公的に認められ、時効成立を先き延ばすことができます。

マンションの管理費・修繕積立金の滞納を未然に防止する方法とは

マンションの管理費や修繕積立金の滞納が起こると、督促や訴訟といった手間が発生するため、可能な限りの予防策を取っておくことが重要です。ここでは、マンションの管理費等の滞納を未然に防止するために、取るべき対策について解説します。

住民に必要性を説明する

マンションの住民に対して、管理費や修繕積立金がなぜ必要なのかを説明しておくだけでも、滞納の予防につながります。通常は、マンション購入時に管理費等について説明がありますが、費用の具体的な用途や滞納によって起こりうる支障や問題について知らない人もいます。

管理費等の必要性を住民にしっかり伝えておくことで、「支払いたくない」といった軽い気持ちで支払いを怠るケースを減らせるでしょう。

口座振替で徴収する

管理費や修繕積立金を、口座振替で徴収することを検討しましょう。都度振り込みの場合、住民側が手続きをうっかり忘れてしまい、滞納となる可能性があります。

口座振替なら規定の日に自動で引き落としがかかるので、確実に費用を徴収できる上、住民側の振り込みの負担も軽減できます。残高不足で振替ができないことのないよう、引き落とし日の数日前に張り紙や手紙の投函などでお知らせしておくと無難です。

管理規約で規定する

マンションの管理規約を工夫することで、管理費や修繕積立金の滞納を予防できる場合があります。例えば、規約内で滞納が起きた際の遅延損害金を定めておく、滞納した費用について裁判を行い請求する場合の弁護士費用や手数料などは滞納者が負担する、といった旨を記載しておきます。

ペナルティについて周知する

滞納時のペナルティについて定め、周知することも対策として有効です。先述の管理規約で定めた遅延損害金の金額や計算例、弁護士費用の目安金額などを明示しておくことで、滞納の予防につながります。

滞納が起きたらできるだけ早めに対処する

予防策を講じていながらも、管理費や修繕積立金の滞納が発生した場合には、放置せずに早期に対応することが重要です。滞納しても問題にならない、という状況は、滞納の再発や他の住民による滞納の連鎖といったリスクが高まります。

滞納額が増えるほど一括での支払いが難しくなる上、回収できるハードルも上がってしまうため、短期間だからと見過ごすことのないよう、1ヶ月分でも速やかに督促を行い、早期回収に努めましょう。

当社マンション管理士のひと言

管理費・積立金の滞納は早急な対応が必要です。管理会社や理事会、理事長個人に任せるのではなく、区分所有者全員が滞納者への対応を意識して取り組むことが必要です。滞納者が増えると、管理組合としての収入が絶たれることになり、管理不全につながる重大な問題です。滞納が生じないよう、日ごろからチェックを行う必要があります。

まとめ

マンションの管理費や修繕管理費の滞納は、日ごろのマンション管理や修繕計画に影響を及ぼす重大な問題です。マンションには複数の人が居住しているとはいえ、1人だけの滞納であっても、数ヶ月続くことで金額が積み重なり、修繕費用の不足を招きかねません。

滞納が発生すると、手紙での督促だけで支払ってもらえる場合もありますが、支払いの見込みがない場合は裁判所からの支払督促や訴訟、競売請求といった法的措置も検討する必要があります。

こうした取立てには多大な手間やコストがかかるため、滞納を未然に防ぐための対策を取ることが大切です。マンションの住民に対して、管理費等の必要性を十分に説明するとともに、徴収方法や管理規約を見直し予防策を講じましょう。

万が一滞納が発生してしまった場合には、長期化を避けるためにも早期回収を目指して請求のアクションを起こすことが大切です。

監修者

黒木 淳/大和財託株式会社 マンション管理士・マンション管理シニアコンサルタント

【保有資格】
管理業務主任者・マンション管理士・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士

【プロフィール】
損害保険調査業、鉄道系大手分譲マンション管理会社を経て、大和財託株式会社に入社。
所有者にとって最適な物件管理を提案することを重視し、「大切な資産」であるマンションを守るため、各オーナー様の物件管理をサポート。

【メッセージ】
分譲マンションの問題が多様化する昨今、当社は大規模修繕工事は当然、税務や管理運営まですべての分野に対応できることが強みです。
長年、マンション管理に携わってきた経験を活かし、管理組合様、理事長様のニーズに寄り添ったサービスを提供し、皆様の快適な暮らしをサポートいたします。
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