住宅を建てるにあたり、劣化対策等級をひとつの基準として参考にしたいと考えている人もいるでしょう。 劣化対策等級とは、建物の劣化対策や性能を示す項目です。居住用の住宅を購入する場合だけでなく、賃貸経営する場合も、劣化対策等級の取得にはメリットがあります。住宅ごとに性能を比較できたり、地震保険の優遇を受けられたりするためです。この記事では、劣化対策等級の詳細、メリット・デメリット、構造ごとの評価方法の違いなどについて解説します。
目次
劣化対策等級とは何か
そもそも劣化対策等級とは、どのようなものなのでしょうか。ここでは、劣化対策等級の概要を解説します。
概要
劣化対策等級は、住宅性能表示制度において建物の劣化を防ぐための対策がどの程度行われているか評価する 項目の1つです。そのため、劣化対策等級を確認すれば、その建物に対してどの程度の劣化対策が施されているか分かります。劣化対策等級は1~3段階に分かれています。数字が大きくなるほど等級が高く、等級が高くなるにつれて 建物も長持ちすることを表しています。つまり、劣化対策等級が高い建物ほど、構造躯体などに使用する材料の交換といった大規模な改修工事が必要になるまでの期間が長いと言えます。
劣化対策等級のそれぞれの違いについてまとめると、以下のとおりです。
劣化対策等級3
劣化対策等級3は、劣化対策により、建物が限界を迎えるまでの期間が3世代以上である場合に認められます。具体的には、75~90年にわたって大規模な改修工事 が不要となる劣化対策が必要 です。たとえば、木造の場合は以下の劣化対策が必要であり、評価の基準にもなっています。
・外壁の軸組等における一定の防腐・防蟻措置
・土台における一定の防腐・防蟻措置
・浴室及び脱衣室における一定の防水措置等
・地盤における一定の防蟻措置
・基礎における一定の基礎高さ確保
・床下における一定の防湿・換気措置
・小屋裏における一定の換気措置
・構造部材等における基準法施行令規定への適合
参考:国土交通省「評価方法基準案(劣化対策)の各等級に要求される水準の考え方
劣化対策等級3は最も基準が厳しく、劣化を防ぐためのしっかりとした対策が必要です。たとえば、外壁の軸組や土台などの防腐措置については、外壁の下方の端に水切りを設ける必要があります。また、床下の防湿と換気措置について、外壁の床下部分には、4メートル以下おきに300平方センチメートル以上の換気孔を作らなければなりません。
劣化対策等級2
劣化対策等級2は、劣化対策により、建物が限界を迎えるまでの期間が2世代以上である場合に認められます。具体的には、50~60年にわたって大規模 な改修工事が不要となる劣化対策が必要です。
劣化対策等級1
劣化対策等級1は、建築基準法で義務付けられている劣化対策を満たす場合に認められます。劣化対策等級の3段階の中でも最も低い等級です。1世代にあたる25〜30年が経過すれば、大規模な改修工事が必要になります。
住宅性能表示制度とは何か
住宅性能表示制度とは、住宅の性能を正しく評価し、買い手が安心して住宅を購入できるようにするための制度です。2000年4月に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」に基づいて運用されています。品確法そのものも、住宅の性能を適正に評価する目的で作られました。
住宅性能表示制度のもとでは、設計住宅性能評価書と建設住宅性能評価書により住宅の性能が示されています。設計住宅性能評価書とは、設計図を作る段階で住宅に対する評価をまとめた書類です。それに対して建設住宅性能評価書は、施工および完成の段階で住宅に対する評価をまとめた書類です。住宅性能表示制度における評価は、必ず第三者機関に依頼する必要があります。
【購入者向け】劣化対策等級がある住宅のメリットとは
劣化対策等級が高い住宅を購入すれば、複数のメリットがあります。以下で具体的に解説します。
メリット1:住宅ごとに性能を比較できる
劣化対策等級の認定を受けている住宅 は、住宅の性能を客観的に把握できます。そのため、購入する住宅を選ぶ際に性能を比較しやすいです。業者によって住宅の建て方や施工内容などは異なるため、一般の買主の目線からでは性能の違いが分かりにくい場合も少なくありません。しかし、劣化対策等級の基準は統一されており、さまざまな業者が建てた住宅を同じ基準で評価できます。希望に合う物件をスムーズに見つけられ 、自信を持って購入を決断できるでしょう。
メリット2:地震保険などの優遇が受けられる
耐震等級の認定を受けていると、優遇を受けられる場合が あります。たとえば、 保険料が割引になる地震保険が あり 、お得に保障を受けることが可能です。また、住宅ローンのなかには 、劣化対策等級の認定を受けている住宅について支払い を一部免除しているものが あります。住宅金融支援機構が提供している「フラット35」を利用する場合、劣化対策等級の認定を受けていて一定の要件を満たしている物件は、検査による適合証明書の発行手続き を簡略化できるというメリットがあります。
メリット3:トラブルの未然防止につながる
住宅に何らかの問題が発生しても、建設住宅性能評価書が交付されている住宅なら指定住宅紛争処理機関に相談でき、紛争の解決にかかる費用や時間を抑えられます。指定住宅紛争処理機関とは、具体的には全国の弁護士会などです。国土交通大臣が指定しており、請負契約や売買契約に関する紛争の発生時に仲裁や調停を行うことになっています。費用は1件につき1万円がかかりますが、裁判を行わずに済む可能性が高いです。
建設住宅性能評価書が交付されていない住宅でトラブルが発生した場合、国民生活センターなどへ相談するケースが多いです。裁判が必要になる場合もあり、紛争を解決するために多くの費用と時間がかかるリスクがあります。
【賃貸経営者向け】劣化対策等級がある住宅のメリットとは
賃貸経営に取り組む場合も、劣化対策等級が高い住宅にはメリットがあります。以下で詳しく解説します。
メリット1:融資期間が長くなりやすい
劣化対策等級の認定を受けていれば、賃貸経営のためにローンを組む際に融資期間を長く設定できる可能性があります。劣化対策等級の認定を受けている住宅は劣化対策が行われているため 、一般の住宅よりも耐用年数が長いと判断されます。たとえば、賃貸経営のために新築の木造住宅を建てる場合、融資期間は法定耐用年数の22年までに設定される場合が一般的です 。法定耐用年数とは、税務処理のために一律で決められている耐用年数のことです。劣化対策等級 を取得すれば、30年以上の融資期間を設定できるケースが あります 。
融資期間が短いと月々の返済金額が増え、キャッシュフローが悪くなります。それにより、手元のお金が不足して資金繰りが悪化にもつながります。 劣化対策等級3の取得により融資期間を延ばせると、余裕のある賃貸経営が を実現可能です。
メリット2:メンテナンス費用の削減につながる
劣化対策等級の認定を受けている住宅は劣化対策が行われているため 、大規模な改修工事が必要となる頻度は通常よりも低くなります。劣化対策等級を取得していない住宅より も劣化しにくいため、メンテナンス費用を抑えることが可能です。メンテナンス費用が多くかかれば、たとえ常に満室で理想的な状態でも手元のお金が不足して資金繰りが悪化する恐れがあります。劣化対策等級を取得すると、そのようなリスクの軽減にもつながります。
メリット3:地震保険料が割引される
耐震等級を取得した住宅は、地震保険の保険料が割引されます 。割引率は10~50%であり、劣化対策等級を取得していない住宅と比較して大幅に保険料が下がります。
なお、地震保険は火災保険につけられる特約で、基本的に地震保険のみの契約はできません 。また、地震保険は政府と保険会社による保険であり、どの保険会社の地震保険であっても保険料は一律です。保険会社による独自の割引はないため、住宅性能評価の取得で割引を受けられるのは魅力的です。
メリット4:資産価値が上がる
劣化対策等級を取得すれば、資産価値の向上も期待できます。劣化対策等級がつく住宅には、住宅性能表示制度に基づいて設計住宅性能評価書や建設住宅性能評価書が作成されます。これは、住宅が国土交通省の基準を満たしていることを示す証明書です。客観的に住宅の性能の高さを証明できるため、資産価値も高くなります。たとえば、賃貸経営を始めてからしばらく経った頃に物件を売却する場合も、劣化対策等級の認定を受けていると有利に取引できるでしょう。
劣化対策等級の評価方法を解説
劣化対策等級の評価方法は、どのようになっているのでしょうか。ここでは、具体的な基準について説明します。
住宅の構造ごとに評価方法が異なる
劣化対策等級の評価については、住宅の構造によって異なる基準が設けられています。住宅の主な構造として挙げられるのは、木造、鉄骨、鉄筋コンクリート造です。評価方法が構造によって異なる理由は、それぞれ使用する材料に違いがあり、必要な劣化対策も異なるからです。各構造の評価方法について、以下で解説します。
【木造編】劣化対策等級で求められる基準
木造住宅では、水分や湿気により木材の腐朽やシロアリの被害が生じる可能性があります。それを軽減するため、通気・換気をはじめとする構法上の工夫や、高耐久の木材の使用といった材料の選択などを評価します。
木造の住宅について、劣化対策等級で求められる基準を等級ごとにまとめると、以下のとおりです。
等級3 | 外壁の軸組の防腐・防蟻措置 土台の防腐・防蟻措置 浴室・脱衣室の防水措置 地盤の防蟻措置 基礎の高さの確保 床下の防湿・換気措置 小屋裏の換気措置 基準法施行令規定に対する構造部材等の適合 |
等級2 | 外壁の軸組の防腐・防蟻措置 基準に対する土台、浴室・脱衣室、地盤、基礎、床下、小屋裏、構造部材等の適合 |
等級1 | 基準に対する構造部材等の適合 |
【鉄骨編】劣化対策等級で求められる基準
鉄骨造住宅では、水分や大気中の汚染物質による鋼材のさびを軽減するための対策が必要です。そのため、めっきや塗料の工夫や換気を行うことなどを評価します。
鉄骨の住宅について、劣化対策等級で求められる基準を等級ごとにまとめると、以下のとおりです。
等級3 | 構造躯体の防錆措置 床下の防湿・換気措置 小屋裏の換気措置 基準法施行令規定に対する構造部材等の適合 |
等級2 | 鋼材の防錆措置 基準に対する土台、浴室・脱衣室、地盤、基礎、床下、小屋裏、構造部材等の適合 |
等級1 | 基準に対する構造部材等の適合 |
【鉄筋コンクリート造編】劣化対策等級で求められる基準
鉄筋コンクリート造住宅などでは、水分や大気の影響による鉄筋のさびなどを軽減する対策が必要です。そのため、コンクリートの厚さ、強度の確保、コンクリートを保護する外装材の選択などを評価します。 いずれも、日常の清掃、点検、補修がある程度行われ、通常の自然条件が継続するという前提のもと、等級に応じた耐用期間を確保するために必要な対策が講じられているかどうかを評価します。
鉄筋コンクリート造の住宅について、劣化対策等級で求められる基準を等級ごとにまとめると、以下のとおりです。
等級3 | セメントの種類 コンクリートの水セメント比 部材の設計・配筋 コンクリートの品質 施工計画 基準に対する構造部材等の適合 |
等級2 | 等級3の基準への適合(コンクリートの水セメント比が等級3より高い) |
等級1 | 基準に対する構造部材等の適合 |
劣化対策等級・住宅性能表示に対応する際の注意点を解説
劣化対策等級や住宅性能表示を重視する場合、気をつけたいことが あります。注意点をまとめて解説します。
建築コストが上がる可能性がある
性能が高い住宅を建てる場合、一般的な住宅を建てる場合よりも建築コストが上がる可能性があります。劣化対策等級を取得するには高い基準を満たさなければならず、建築資材や施工内容のグレードも上げる必要があります。また、住宅性能表示制度の申請には費用がかかるため、通常よりも初期費用が高くなるでしょう。
設計デザインが制限されるケースもある
住宅性能表示に基づいた住宅を建てるには、設計デザインも制限される場合があります。たとえば、大きな吹き抜けを設けたり、壁や柱がない広々した空間 を作ったりすると、耐震性能が低下します。基準を満たせないために、もともと希望していた設計デザインを実現できなくなる可能性があるでしょう。住宅性能評価の獲得を第一に考えるなら、その基準の範囲内で設計デザインを工夫する必要があります。
工期が長くなる恐れがある
住宅について住宅性能評価を獲得しようとする場合、通常よりも工期が長くなる可能性があります。住宅性能評価の申請をするには、設計図面について第三者機関の評価を受ける必要があります。やり取りが発生するため、そもそも着工するまでに時間を要するケース が多いです。また、基礎工事、躯体工事、内装工事、屋根工事、竣工についてそれぞれ現場での検査が必要となります 。検査をするために工事を止めなければならないケースもあり、住宅の完成が遅れる原因になる恐れがあります。当初の想定以上に工期が伸びる可能性もあるため、計画に余裕をもたせなければなりません。
まとめ
劣化対策等級は、住宅性能表示制度で建物の劣化対策を評価する項目です。劣化対策等級を取得すると、設計住宅性能評価書と建設住宅性能評価書により、建物の性能が一定の基準を満たしていると証明できます。
土地活用で賃貸経営する際は、劣化対策等級の取得もぜひ検討しましょう。劣化対策等級を取得すると融資期間が長くできる可能性があるからです。賃貸経営においては、手残りのキャッシュフローが特に重要です。劣化対策等級のメリットを活用し、賢く賃貸経営に取り組みましょう。
監修者
藤原 正明/大和財託株式会社 代表取締役CEO
昭和55年生、岩手県出身、岩手大学工学部卒。
三井不動産レジデンシャル株式会社で分譲マンション開発に携わり、その後不動産会社で収益不動産の売買・管理の実務経験を積む。
2013年に大和財託株式会社を設立。収益不動産を活用した資産運用コンサルティング事業を関東・関西で展開。
中小企業経営者、土地オーナー、開業医・勤務医、高年収会社員などに対して多様な資産運用サービスを提供している。
自社設計施工により高品質ローコストを実現している新築1棟アパート・マンション、中古物件のリスクを排除した中古1棟リノベーション物件、デジタルテクノロジーを活用した不動産小口化・証券化商品、利益最大化を実現する賃貸管理サービスなどを、顧客のニーズに合わせて組み合わせて提案できることが強みである。
資産運用領域で日本No.1の会社を目指し日々経営にあたっている。
マッスル社長としてYouTubeでも活躍中。
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