なぜ不動産投資は相続対策に有効なのか? 注意すべきポイントもあわせて解説 

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長い人生の中で、相続はそう何度もあるものではありません。しかし、相続税に関する手続きや遺産分割協議など、何かと骨が折れるライフイベントであると言えます。相続する資産額が大きいと相続税の額が莫大になる可能性もあり、適切な節税も求められるでしょう。 

この記事では、相続対策として不動産投資が有効である理由について詳しく解説。相続対策の面から見た、不動産投資のメリットや注意点についても紹介していきます。 

他人事ではなくなった相続税

かつての相続税は、大きな遺産を抱えるお金持ちが収める税金というイメージがありました。しかし、2015年の相続税制の大改正によって、より多くの人に関係するものへと変わってきています。改正による増税の内容について見ていきましょう。 

2015年の相続税制大改正

2015年1月1日から施行された相続税制改正では、相続税について大きく次の2点が変更されました。 

  • 基礎控除額の引き下げ 
  • 税率の引き上げ 

特に1点目の基礎控除額の引き下げは、従来相続税を納める必要がなかった人も課税対象者になるということを指しています。 

国税庁「令和3年分 相続税の申告事績の概要」によると、相続税納付の対象となる被相続人の割合を示す「課税割合」は、税制が改正された2015年時点で8.0%でした。前年の2014年は4.4%であり、税制改正によって倍近くも課税対象者が拡大しているのです(※)。 

それ以降も課税割合は緩やかな上昇傾向にあり、2021年は9.3%に達しています。被相続人のおよそ10人に1人は、相続税納付の対象になるという計算です。 

かつて「一部の金持ちだけに関係する世界」と思われていた相続税が、多くの人にとって「自分ごと」になったと言えるでしょう。お金持ちに限らず、誰もが相続対策を本気で考える必要があるのです。

※出典:国税庁 平成30年分相続税の申告事績の概要 

基礎控除額の引き下げ

2015年の相続税制改正による主な変更点2つについて、それぞれ詳細な内容を見ていきましょう。 

まず、1点目は基礎控除額の引き下げです。そもそも相続税は、遺産総額から基礎控除額を差し引いた部分に対して課税されます。遺産総額が基礎控除額を下回っていれば、相続税を納める義務はありません。 

「基礎控除額が引き下げられた=従前より少ない遺産総額でも納税しなければならなくなった」ということであり、課税対象者が倍近く増えたというわけなのです。具体的には、次のとおり引き下げられました。 

改正前(2014年12月31日まで) 5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数) 
改正後(2015年1月1日以降) 3,000万円+(600万円×法定相続人の数) 

例えば、夫婦と子ども3人の家族で夫が亡くなってしまったとき、妻と3人の子どもが相続人となる場合を考えてみます。遺産総額は6,000万円とします。 

改正前は、5,000万円+(1,000万円×4人)=9,000万円まで基礎控除の範囲内となるため、本ケースは相続税の課税対象となりませんでした。一方、改正後の基礎控除額は3,000万円+(600万円×4人)=5,400万円となり、6,000万円−5,400万円=600万円が課税対象になります。 

税率の引き上げ

相続税制改正における2つ目のポイントが税率の引き上げです。 

所得税と同じように、相続税は相続額が大きいほど税率が高くなる累進課税制度が採られています。税制改正によって最高税率が引き上げられたほか、相続額2億円を超える部分に関して税率が細分化されました。 

改正前後で税率を比較すると、次の表のとおりになります。

各自が相続した金額 改正前の税率 改正後の税率 控除額 
1,000万円以下 10% 10% ― 
3,000万円以下 15% 15% 50万円 
5,000万円以下 20% 20% 200万円 
1億円以下 30% 30% 700万円 
2億円以下 40% 40% 1,700万円 
3億円以下 45% 2,700万円 
6億円以下 50% 50% 4,200万円 
6億円超 55% 7,200万円 
・出典:国税庁「No.4155 相続税の税率」 
 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm 

表を見ればわかるとおり、相続した金額が2億円を超える場合で税負担が増えるケースがあります。 

相続した金額が小さい人には影響がないように見えますが、先ほど紹介したとおり基礎控除額が引き下げられているため、多くの人に影響のある改正内容だったと言えるでしょう。

2023年度税制改正による変化

2023年度税制改正において、相続税や贈与税に関する規定が一部見直されました。変更となった2点について紹介していきます。 

生前贈与加算期間が3年から7年へ延長

生前贈与した財産は相続税の対象とはならず、年間110万円以下であれば贈与税も非課税です。ただし、被相続人の死亡日から遡って、一定年数内に生前贈与された財産に関しては「生前贈与加算」が適用されます。被相続人の死後、加算分も併せて相続税を納めなければなりません。 

これまで生前贈与加算の適用期間は3年でしたが、税制改正により7年へ延長されました。死亡日の3年前までの贈与財産は全額が課税対象、4〜7年前までの贈与財産は総額100万円を控除した金額が課税対象となります。 

相続時精算課税に年110万円の控除を新設

贈与税には「暦年課税」「相続時精算課税」という2つの課税方式があり、納税する人がどちらか一方を選択できます。 

  • 暦年課税   :年間で贈与された財産について、1年ごとに課税する制度 
  • 相続時精算課税:特定の贈与者から受けた贈与について累計2,500万円まで贈与税を非課税とし、 
            相続発生時に生前贈与分もまとめて相続税を課税する制度 

従来の制度では、相続時精算課税を選ぶと暦年課税の年間110万円控除は利用できませんでしたが、2023年税制改正で110万円基礎控除が新設。累計2,500万円の特別控除に加え、年間110万円の控除も適用されるようになりました。 

これにより、110万円×贈与年数分が相続税の課税対象から控除されることになるため、相続税精算課税が使いやすくなったと言えます。 

不動産の相続手続きの流れ

相続の対象となる財産にはさまざまな種類があります。相続財産に不動産が含まれる場合の手続きは、大まかに次の流れで進めていきます。

  1. 遺言書を確認する 
  2. 相続人を確定する 
  3. 相続財産を特定する 
  4. 遺産分割協議を行う 
  5. 相続登記を行う 
  6. 相続税の申告・納税を行う 

各フェーズについて詳しく見ていきましょう。 

遺言書を確認する 

相続が発生したら、まずは被相続人の遺言書がないか確認します。 

個人が亡くなったとき、法定相続をベースに協議をして相続が行われるのが基本です。ただ「特定の相続人に多く遺産を分け与えたい」「相続人同士の争いを避けたい」などの理由で、被相続人が遺言書を遺しているケースもあります。遺言書がある場合には、原則遺言書の記載内容に従って相続が行われます。 

遺産分割協議で内容がまとまった後に遺言書が発見された場合でも、遺言書の内容が優先される点は要注意。相続手続きにおいて遺言書の効力は大きいため、存在の有無を最初に確認する必要があります。 

相続人を確定する

遺言書の有無を確認できたら、相続人を確定しなければなりません。 

生計を一にする親族や直系尊属の範囲内であれば問題ありませんが、長年連絡を取っておらず存在すら知らない相続人がいる可能性もあります。遺産分割協議は相続人全員が参加・合意する必要があるため、被相続人の戸籍謄本を取り寄せて調査し、すべての相続人と相続関係を明らかにすることが大切です。 

手続きをスムーズに進めるためにも、この段階で抜け漏れなく相続人を確定するようにしましょう。 

相続財産を特定する

相続人を確定するのと並行して、相続財産も特定しなければなりません。相続財産の一覧は財産目録に取りまとめます。中には、被相続人が生前に財産目録をまとめていて、遺言書とともに遺している場合もあるでしょう。 

相続財産には、土地・建物などの不動産をはじめ、株式・投資信託などの有価証券、現金・預貯金、被相続人が受取人である保険金、宝石類、特許権・著作権といった、金銭的価値があると考えられるすべてのものや権利が含まれます。 

なお、住宅ローンやクレジットカードの未払い分といった借入金、未納付の税金など、負債や債務も遺産として相続されるので注意しましょう。 

遺産分割協議を行う

相続人の確定と相続財産の特定が完了したら、法定相続人全員で遺産の分割方法について話し合います。これを遺産分割協議と呼びます。遺言書がある場合には、遺言書の内容に従って相続が行われるため、基本的に遺産分割協議は必要ありません。また、相続人が1人しかいない場合も協議は不要です。 

法定相続割合が定められているものの、遺産分割方法は自由に決定可能です。特に不動産は分割しづらいため、誰が相続すべきなのか慎重に検討する必要があります。 

協議が整ったら、決定した内容を「遺産分割協議書」にまとめます。相続人全員が署名・実印で押印し、正式な書面として以後の手続きに使用するのです。 

相続登記を行う

相続財産に不動産が含まれている場合、相続する不動産の所有権移転登記を行います。いわゆる相続登記と呼ばれるものです。 

相続登記には、登記事項証明書・被相続人の戸籍謄本・遺産分割協議書などが必要となるため、事前に準備しておくといいでしょう。 

近年、所有者が判明しない、判明しても所在不明で連絡が付かないという「所有者不明土地」が問題となっています。こうした問題の解消を図るべく、不動産登記法が改正され、相続登記の義務化が決まりました。義務化は2024年6月1日から適用される予定。正当な理由のない申告漏れは罰則の対象となります。 

なお、義務化にともない「相続人申告登記」が新設。登記官に必要項目を申し出れば申請義務を履行したとみなされるようになるため、登記手続きによる負担は軽減されるでしょう。 

相続税の申告・納税を行う 

相続内容が決まったら、速やかに相続税の申告と納税を行います。 

相続税の申告書は、相続が開始したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に提出しなければなりません。納付期限も同様であり、電子納付・クレジットカード納付・金融機関または税務署窓口での現金納付、いずれかの方法で納めます。 

申告書は、書面もしくはe-Taxでも提出可能。提出先は、被相続人が亡くなったときに住んでいた場所を所轄する税務署長となっています。相続人が住んでいる場所を所轄する税務署長への提出ではないため、注意しましょう。 

不動産投資による相続税評価額の圧縮

税制改正により、一定の財産を持つ人にとって相続税は負担の大きなものとなりました。そのような中で、不動産投資が相続対策に有利であるとして注目されています。

現金や金融資産は時価100%

相続税は、相続する資産の評価額をベースに計算されます。 

資産の種類によって評価額の求め方は異なります。現金、預貯金、株式、投資信託などの評価額は時価100%。金融資産は額面通りに評価されるため、例えば5,000万円の預金があったとすれば、5,000万円全額に対して相続税が課されるということです。 

これに対し、土地・建物といった不動産は、実勢価格がそのまま評価額となるわけではありません。不動産の相続税評価額に対し、相続税が課される仕組みです。不動産の相続税評価額は一般的に時価よりも低くなる傾向にあるため、現金や預貯金から不動産へ資産を組み換えることで、相続税の節税効果が期待できます。 

上記より、不動産投資は相続対策に有利と言われるのです。 

土地・建物の相続税評価額の計算方法

それでは、不動産の相続税評価額はどのように計算するのでしょうか。土地・建物それぞれの計算方法を見ていきましょう。 

土地部分の相続税評価額

まず、土地部分の相続税評価額を求める方法です。土地の評価方法には「路線価方式」と「倍率方式」があります。 

路線価方式

路線価方式は、国税庁が毎年7月1日に公表する路線価図に基づき、土地の評価額を計算する方法です。市街地ではほとんどの地域で路線価が設定されているため、大半の土地は路線価方式で相続税評価額を求めることになるでしょう。 

路線価は路線(道路)ごとに設定されています。面する道路の路線価を基準として、対象となる土地の相続税評価額を計算するのです。具体的には、次の計算式で評価します。 

相続税評価額 = 路線価 × 補正率・加算率 × 地積(土地の面積) 

補正率とは、「道路からの奥行距離が長い」「前面道路に接する間口が狭い」「形状がいびつ」など、利用しづらい土地の評価を正確に表すための割合のこと。「2つ以上の道路に面している」など、利用価値の高い土地については加算率を考慮します。

倍率方式

路線価が設定されていない土地の相続税評価額を求めるときに用いられるのが倍率方式です。路線価が定められていない地域は郊外や地方の市街化されていないエリアに見られ、倍率地域と呼ばれます。 

倍率方式における評価額の計算方法は次のとおりです。 

相続税評価額 = 土地の固定資産税評価額 × 評価倍率 

固定資産税評価額は、自治体から土地所有者に対して毎年送付される「固定資産税課税明細書」に記載されています。課税明細書が手元にない場合、自治体が管理する「名寄帳」や「固定資産課税台帳」を見れば、固定資産税評価額を確認できます。 

なお、路線価と評価倍率は国税庁のwebサイトで確認することができます。 

(参考)国税庁「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」 

小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例とは、相続した土地の相続税評価額を最大80%減額できる制度のこと。当制度を活用すれば、土地の相続税を大幅に圧縮できます。 

相続前に被相続人等の居住の用に供されていた宅地であれば、減額割合は最大値の80%。賃貸事業用として利用されている土地では、200平方メートルまでの部分について評価額が50%減額されます。 

当制度の適用を受けるには、一定の要件を満たしていなければなりません。土地種別ごとに要件が異なりますが、ここでは特定居住用宅地等に適用する場合の要件を紹介します。 

<特定居住用宅地等における要件> 

  • 被相続人の配偶者が相続すること 
  • 被相続人と同居していた相続人や、生計を一にしていた相続人が相続すること 
  • 被相続人に配偶者や同居親族がいない場合において、3年以上自分の持家に住んでいない相続人が相続すること(いわゆる「家なき子特例」)

建物部分の相続税評価額 

次に、建物部分の相続税評価額の計算方法について見ていきます。 

建物は土地に比べて単純で、固定資産税評価額に基づいて相続税評価額が決定されます。相続前に故人が居住用として使っていた自宅であれば、固定資産税評価額=相続税評価額です。 

自宅家屋の相続税評価額 = 固定資産税評価額 × 1.0

固定資産税評価額は、総務省の定める固定資産評価基準をベースに各市町村が決定します。3年に1回更新され、毎年送られてくる「固定資産税課税明細書」を見れば簡単に確認が可能です。 

借地権割合・借家権割合・賃貸割合

賃貸している土地や建物の相続税評価額は、借地権割合・借家権割合・賃貸割合を考慮に入れて計算する決まりです。各種割合の影響により、賃貸物件は更地に比べて相続税評価額が小さくなります。 

賃貸物件が建っている土地部分(貸家建付地)および建物部分の相続税評価額は、それぞれ以下の計算式で求められます。

貸家建付地の相続税評価額 = 更地としての評価額 ×(1 − 借家権割合 × 借地権割合 × 賃貸割合) 

建物部分の相続税評価額  = 建物の固定資産税評価額 ×(1 – 借家権割合 × 賃貸割合) 

借地権割合は、国税庁が30〜90%の範囲でエリアごとに定めるもの。都心の繁華街や駅前など土地の利用価値が高いと考えられる地域ほど、借地権割合が大きくなる傾向にあります。路線価図ではA(90%)〜G(30%)として記載されています。 

借家権割合は一律30%。賃貸割合は、全戸数に対する貸し出している戸数の割合ではなく、全体の床面積に対する賃貸床面積の割合である点に注意が必要です。 

「タワマン節税」制限について

投資物件ではなく実需物件の話題ではありますが、2024年税制改正において、いわゆる「タワマン節税」が制限されるという報道がありました。 

タワマン節税とは、高層階になるほど物件の実勢価格と相続税評価額の間の乖離が大きくなることを利用した相続税の節税方法です。タワーマンションを購入するだけで相続税の大幅な節税が可能になるため、以前より「租税の公平性の原則」に反するのではないかという声が出ていました。 

報道によると、国税庁は相続税評価額の新たな算定式を導入するとしています。具体的には、実勢価格と相続税評価額の乖離率が1.67倍を超えるケースにおいて、乖離分を考慮した計算方法に見直すというものです。新たに検討されている相続税評価額の算定式は以下のとおりです。 

新たな相続税評価額(乖離率が1.67倍超の場合)= 従前の相続税評価額 × 乖離率 × 0.6 

この算定ルールが導入されると、タワマン購入による相続税の節税効果は薄まることになります。正式決定はこれからですので、状況を見極める必要がありますが、不動産を活用した相続対策の有効性自体は変わりません。 

参考:国税庁「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議について」 

他にもある不動産投資のメリット

不動産投資は相続税の圧縮以外にも、相続対策に有利となるさまざまなメリットがあります。 

家賃収入を得ることができる

家賃収入を得ることができるというのは不動産投資の代表的なメリットです。 

賃貸経営が軌道に乗ると、長期かつ安定的に家賃収入を得られるようになります。例えば更地に収益物件を建て賃貸経営を行えば、相続税を圧縮できるだけでなく、そこから得られる家賃収入による資産拡大も可能です。相続人に引き継ぐことで、相続人の資産確保および相続税を納付する際の原資確保にもつながるでしょう。 

ただ、先ほど解説したとおり、現金や預貯金をはじめとした金融資産は時価100%で相続税が課税されます。家賃収入を預貯金として保有し、そのまま相続してしまうと、相続人の税負担が重くなってしまうリスクがあります。 

将来の相続税を圧縮するためには、家賃収入分の預貯金を再度不動産へと資産組み換えしたいところ。「既存物件から一定の賃貸収入が得られる状態になったら、それを原資に新たな賃貸物件に投資」というサイクルを生み出し、相続対策をしながら資産拡大を目指すのがおすすめです。 

なお、次に紹介する借入金を利用する方法を取り入れれば、さらに相続税を縮減できる可能性があります。

借入金を相続対策に使える

相続税の対象となる資産には、負債や債権といったマイナスの資産も含まれると紹介しました。相続税の計算では、プラスの資産からマイナスの資産を差し引く「債務控除」が認められています。債務控除後の純資産額が課税対象となるため、負債や債権の分だけ相続税評価額を少なくできるのです。 

賃貸物件を新築、または購入する場合、金融機関からの借入金で費用をまかなうのが一般的。借入金はマイナスの資産として債務控除できるため、借入残高の分だけ相続税評価額を減らすことができます。 

例えば、1億円の現金を持つ人が投資用の賃貸物件を購入するケースを考えてみましょう。 

  1. 借入はせず、1億円の現金で時価1億円の物件を購入 
  2. 1億円は使わず、全額借入で時価2億円の物件を購入

ケース1で相続が発生した場合、時価1億円の物件に対して相続税がかかります。物件の相続税評価額が時価の6割とすると、相続税評価額は6,000万円です。 

一方、ケース2だと、現金1億円と時価2億円の物件に対して相続税がかかります。同じく時価の6割で計算すると、評価額合計は1億円+2億円×6割=2.2億円です。ここから借入金2億円を債務控除できるので、最終的な相続税評価額は2.2億円−2億円=2,000万円となります。 

2つのケースを比較すると、借入金の活用により相続税評価額を圧縮できることが分かります。 

注意したいのが、被相続人が団体信用生命保険(団信)へ加入している場合です。死亡時に団信が適用されるとローン残高がゼロになるため、債務控除の対象になりません。「ローンが消滅する=相続人にマイナスの資産が相続されない」ということになるので、当然に債務控除できないのです。 

インフレに強い実物資産を遺せる 

現金や預貯金は相続税評価額が額面どおりになってしまうという点に加え、インフレに弱いという点からも、相続対策に関しては不利な資産です。 

昨今エネルギー価格の高騰やコロナ禍明けの需要の拡大等を背景に、インフレ傾向が強まっています。今後さらにインフレが進行すれば、現金や預貯金は一方的に価値が目減りしていき、相続人の身入りが実質減ってしまうことになるでしょう。 

これに対し、実物資産である不動産はインフレに強いのが特徴。加えて、収入のベースとなる家賃は物価変動に応じて緩やかに上昇する傾向にあるため、インフレによって収入が目減りするリスクも低いと言えます。 

相続を予定している資産を不動産に組み換えれば、インフレに強い実物資産を相続人に遺すことができるのです。 

不動産投資による相続対策の注意点

不動産投資による相続対策はメリットが多いものの、次のような注意点もあるため意識しておきましょう。 

相続争いになる可能性

実物資産である不動産は、現金や預貯金に比べて分割が難しいという特徴があります。不動産は資産額が大きいため、分割せずに誰か一人が相続を受けるというのも、相続人の間での不公平感につながるでしょう。最悪の場合、不動産の分割方針をめぐって相続争いが起きる可能性もあるのです。 

複数の物件を所有し相続人も複数いるなら、物件数と相続人数を揃えるという方法が有効です。自宅は配偶者に、収益物件Aは長男に、収益物件Bは次男に、という具合です。生前から相続を見据えた資産管理を心がけておけば、相続手続きがスムーズに進むでしょう。 

分割による争いを未然に防ぐには、遺言書を遺しておくのも効果的です。基本的に遺言書に記載されている内容が優先されるので、相続人同士が協議をしなくとも自動的に財産を分割できます。相続資産に不動産が含まれる場合「どの物件を誰に相続するか」を決め、遺言書に明記しておくのがおすすめです。 

賃貸経営に失敗するリスク

不動産投資が相続対策に有利であるというのは、賃貸経営が軌道に乗る前提の話です。そもそも賃貸経営が上手くいかないようでは、相続対策としても逆効果になってしまいます。 

賃貸経営を成功させ、相続対策の効果を発揮させるには、賃貸経営にまつわるリスクを正しく理解しておかなければなりません。主なリスクとして次のようなものが挙げられます。 

  • 空室リスク   :空室が発生して家賃収入が入らなくなるリスク 
  • 家賃下落リスク :築年数の経過につれて家賃収入が低減していくリスク 
  • 家賃滞納リスク :家賃を滞納する入居者がいて、期待どおりの家賃収入が入らないリスク 
  • 修繕リスク   :建物や設備の不具合などにより、想定外の修繕・設備費用が生じるリスク

賃貸経営を行う以上、こうしたリスクは避けられません。しかし、物件選び・融資条件の設定・管理会社の選定などを正しく行えば、リスクコントロールは十分に可能です。 

不動産投資会社や管理会社といったベストパートナーを慎重に選んで、リスクに負けない賃貸経営を目指しましょう。 

国税当局に否認される可能性 

レアケースではあるものの、不動産投資による相続対策が国税当局によって否認される場合があります。特に相続税評価額が大きいケースで注意が必要です。 

実際の判例をもとに中身を見ていきましょう。 

【東京地裁令和元年(2019年)8月27日判決の事例】 

Aは相続対策として、6億3,000万円を借り入れたうえで、東京都杉並区の賃貸マンション1棟を8億3,700万円で購入。その後、妻から4,700万円・銀行から3億7,800万円を借り入れて、神奈川県川崎市の賃貸アパート1棟を5億5,000万円で購入しました。 

やがてAが亡くなり、2つの不動産は相続人に相続されます。相続人は、両物件の相続税評価額を路線価方式で計算し、相続税を申告しました。 

これに対して税務署は、不動産鑑定評価額に基づく相続税評価額を適用。相続税の過少申告にあたるとし、不足分の納税と過少申告加算税の支払い処分を下しました。相続人側は処分内容を不服として、審査請求と処分の取り消しを求めて裁判所に提訴したのです。 

杉並区の物件は、不動産鑑定評価額7億5,400万円に対し、路線価方式による評価額は2億4万円。川崎市の物件は、不動産鑑定評価額5億1,900万円に対し、路線価方式の評価額は1億3,366万円。いずれも路線価方式による評価額の方が大幅に低くなっていました。 

東京地裁は国の言い分を認め、相続人の訴えを退けました。相続人は高等裁判所へ控訴しますが、これも棄却。2023年4月19日、最高裁で国側勝訴の判決が下っています。

(参考)東京地裁判例

この判例は、路線価方式により算出した評価額が鑑定評価額と著しく乖離しているとされ、租税回避行為とみなされたのがポイントです。 

相続税評価額が大きくなると同様の判断が下る可能性もあるので、資産額が大きい場合には税理士などの専門家の意見を聞くようにしましょう。 

まとめ 不動産投資は相続対策として効果絶大 

不動産は現金や預貯金に比べ、相続税評価額を抑えられるのが特徴。家賃収入による資産拡大や借入金による債務控除なども見込めるため、不動産投資による相続対策の効果は絶大と言えます。 

一方で、賃貸経営には空室リスクをはじめとした各種リスクがあるのも事実です。信頼できる不動産投資会社や賃貸管理会社を見つけ、良きパートナーになってもらうことで、適切なリスクコントロールが可能となります。 

信頼できるパートナーとタッグを組み、不動産投資を活用した相続対策に取り組んでみてはいかがでしょうか。 

監修者

藤原 正明/大和財託株式会社 代表取締役CEO

昭和55年生、岩手県出身、岩手大学工学部卒。
三井不動産レジデンシャル株式会社で分譲マンション開発に携わり、その後不動産会社で収益不動産の売買・管理の実務経験を積む。
2013年に大和財託株式会社を設立。収益不動産を活用した資産運用コンサルティング事業を関東・関西で展開。
中小企業経営者、土地オーナー、開業医・勤務医、高年収会社員などに対して多様な資産運用サービスを提供している。
自社設計施工により高品質ローコストを実現している新築1棟アパート・マンション、中古物件のリスクを排除した中古1棟リノベーション物件、デジタルテクノロジーを活用した不動産小口化・証券化商品、利益最大化を実現する賃貸管理サービスなどを、顧客のニーズに合わせて組み合わせて提案できることが強みである。
資産運用領域で日本No.1の会社を目指し日々経営にあたっている。

マッスル社長としてYouTubeでも活躍中。
書籍「収益性と節税を最大化させる不動産投資の成功法則」や「収益性と相続税対策を両立する土地活用の成功法則」を発売中。

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