不動産投資を実際に行っている人は、不動産収入と不動産所得に違いがあることは理解していることでしょう。しかし、その違いを正確に理解されているでしょうか。
この記事では、不動産収入と不動産所得の違いについてあらためて解説するとともに、不動産投資における収入・支出の内訳を詳しく紹介していきます。不動産投資を行うにあたっての確定申告における注意点も解説していきますので、ぜひ今後の参考にしてください。
目次
不動産収入とは
まずは、不動産投資における基本である「不動産収入」とはどのようなものか見ていきましょう。同様によく用いられる「不動産所得」と合わせて、それぞれ解説していきます。
不動産収入
「不動産収入」とは、家賃をはじめとした賃貸経営によって得られる収入の総合計を指します。
収入の内訳についてはこの後の章で詳しく紹介しますが、大部分を占める家賃のほか、礼金、更新料、管理費・共益費などが代表的な収入項目として挙げられます。
また、賃貸物件とともに駐車場や自動販売機といった付帯施設・設備を運営している場合、そこから得られる収入も不動産収入として計上します。賃貸経営を通して得られる売上は、基本的にすべて不動産収入にカウントされるというわけです。
実際には諸経費や税金などがかかるため、不動産収入がそのまま手元に残るわけではありません。
不動産所得
一方の「不動産所得」とは、賃貸経営によって得られる総収入(不動産収入)から、賃貸経営にかかるさまざまな経費や減価償却費等を差し引いたものを指します。確定申告の際に、所得税や住民税を計算するためのものです。実際の手元に残る金額とは異なります。
国税庁では、不動産収入から必要経費として差し引くことができるのは“不動産収入を得るために直接必要な費用のうち家事上の経費と明確に区分できるもの(国税庁ホームページ)”と定めています。
主に次の4項目が必要経費として挙げられており、不動産収入からこれらを差し引いたものが不動産所得となります。
- 固定資産税・都市計画税
- 管理手数料
- 建物管理費
- 修繕費
- 支払利息
- 減価償却費
経費項目の詳細についてはこの後の章で見ていきます。賃貸経営に関する確定申告においては、不動産収入ではなく不動産所得を課税所得として計上します。要するに、不動産所得によって所得税の課税額が決まるということです。
賃貸経営における収入の内訳
賃貸経営においては家賃や共益費以外にもさまざまな収入項目があります。ここでは一棟アパート・マンション経営を例として、項目ごとに詳しく解説していきます。
家賃
賃貸経営における収入の大部分を占めるのが家賃です。家賃をいかに安定して確保できるかというのが、賃貸経営の成否を左右すると言っていいでしょう。
そのため、日頃から入居者による家賃滞納がないかチェックするとともに、滞納があった場合には迅速かつ適切に対応する必要があります。空室が発生すると家賃収入減に直結するので、空室を減らす方策・空室が出たときに可能な限り早く埋める方策を考えておかなければなりません。
礼金
賃貸借契約時に借主からオーナーが受け取る礼金は、将来にわたって返還する必要がなく、そのままオーナーの収入となります。家賃の1〜2ヶ月分というのが相場ですが、そもそも商習慣として礼金が設定されていない地域もあります。
礼金はかつて賃貸物件が少なかった時代、物件を貸してくれたオーナーに対する感謝の気持ちとして借主から支払うという性格のものでした。近年では礼金ゼロのケースも多くなっています。
礼金のほかに敷金を受け取ることも多いですが、敷金はあくまでも借主からの預かり金という扱いです。家賃滞納時や退去時の原状回復費用などに充当した後、残額を借主に返還する必要があるため、収入には当たりません。
更新料
賃貸住宅における賃貸借契約期間は2年間が一般的であり、2年ごとに契約更新の時期を迎えます。契約更新のタイミングで、借主からオーナーに対して支払う費用のことを更新料と呼びます。更新料は賃貸借契約にてあらかじめ定められ、賃料の半月分、1〜2ヶ月分程度が相場です。
なお、更新料は商慣習によるものであり、地域によって有無や相場観が異なります。東京都や神奈川県をはじめとした関東圏や京都府などでは更新料が設定されるケースが多い一方、大阪府や兵庫県といった京都府を除く関西圏では更新料のない物件が大半です。
更新料の発祥について、一説では戦中から戦後の混乱期における深刻な住宅不足の中で生まれた商習慣と言われています。最近ではむしろ賃貸住宅が買い手市場となっているエリアが増えており、借り手をつきやすくするため、関東などでも更新料を設定しない物件も増えてきています。
管理費・共益費
家賃とともに借主がオーナーに対して毎月支払う費用として、管理費や共益費と呼ばれるものがあります。その名のとおり、マンションやアパートの共用部を維持・管理するための費用として徴収するものです。
管理費・共益費の使途としては、廊下やエレベーターなどにかかる電気代、共用部の清掃にかかる費用、消防設備やエレベーターといった設備の点検にかかる費用、管理人の人件費などが挙げられます。
ただ、管理費や共益費は法律で明確に定められているものではなく、徴収したお金をどう使うかはオーナー次第です。借りる側からすれば「賃料+管理費(共益費)=家賃」であり、実質的に家賃の一部と言えるでしょう。
実際、家賃設定を「管理費込み」「共益費込み」としている物件も見られます。管理費や共益費を別立てすると、賃料を計算根拠とする敷金・礼金・更新料が安くなるので、借りる側にとって借りやすく見えるという側面もあります。
駐車場収入
賃貸物件に併設して有料駐車場を設定している場合、駐車場運営による収入も得られます。運営する駐車場の種類としては、入居者向けの駐車場と入居者に限定しない駐車場、一般利用を前提としたコインパーキング経営があります。
入居者向けの駐車場では、家賃と別に駐車場利用料を設定すれば収入を得ることが可能です。土地が限られている都市部の物件だと利用料を設定するのが一般的ですが、郊外や地方の物件では無料駐車場がついているのが当たり前というエリアもあるでしょう。
入居者の数を上回る大きな駐車場を併設している物件や、車を持っていない入居者の多い物件では入居者以外に有料で貸し出せば、家賃以外で収入を得られます。立地の良い物件ならまとまった収入が期待できるでしょう。
自動販売機の売上
賃貸物件のエントランスや併設する駐車場などに自動販売機を設置すれば、売上による収入を確保できます。人通りのある道路沿いにある物件なら、入居者以外の通行者による商品購入も見込め、それなりの収入を得られる可能性があります。
自動販売機は夜間でも明るく周囲を照らしてくれるので、エントランスに設置すると防犯対策にも役立つでしょう。
ちなみに、敷地内にコインパーキングを設置している物件は自動販売機との相性がいいとされます。なぜならコインパーキングの精算機は千円札や硬貨しか使えないものも多く、パーキング利用者が両替も兼ねて自動販売機を使用してくれる場合があるためです。
注意したいのは、空き缶やペットボトルのゴミによる汚れや虫の発生のリスクがある点。物件に悪影響を及ぼさないよう、自動販売機周辺のこまめな清掃や利用者への注意喚起が欠かせません。
太陽光発電の売電収入
不動産賃貸では、物件の屋根などに太陽光発電設備を設置して売電収入を得ることもできます。賃貸物件に設置した設備で発電された電気の一部は共用部の電気として使われ、不動産所得の金額に影響を及ぼすため、売電収入も不動産収入に含めるものとされています。
かつては発電量が10kW以上だと事業用発電として「全量買取制度」が適用されていました。全量買取制度とは、太陽光発電で発電した電気をすべて売ることができる仕組みです。現在では、発電量10kW〜50kW 未満の発電設備については10kW未満の設備と同様、自家消費の余剰分のみを売電できる「余剰電力買取制度」が適用されます。
売電価格は年々低下傾向にあり、今後も下落することが予想されます。太陽光発電設備の導入にあたってはまとまったコストがかかるので、イニシャルコストと売電収入のバランスをよく検討したうえで導入を判断するのがいいでしょう。
携帯電話基地局の設置料
携帯電話の電波が入りづらいエリアにある物件では、携帯電話会社から基地局の設置を打診されるケースがあります。携帯電話基地局を設置するのは、NTTドコモ・au・ソフトバンク・楽天モバイルといったMNO(Mobile Network Operator:移動体通信事業者)です。
こうしたMNOの携帯電話基地局を賃貸物件の屋上に設置すると、設置料として月3〜20万円程度の収入を得られると言われています。基本的に携帯電話会社側からのオファーにより設置するものなので、物件オーナーから誘致することはできません。
基地局を設置するだけで安定的な収入を得られるため、メリットしかないと感じてしまいがちですが注意点もあります。
たとえば、携帯電話の電波による健康への影響を心配する人もいるため、基地局があることで入居希望者を限定してしまうリスクが考えられるでしょう。
貸し看板の賃料
マンションやアパートの屋上、壁面、駐車場、空いている土地などに貸し看板を設置して賃料を得ることもできます。人通りや車通りの多い立地であれば借主が見つかりやすいでしょう。
貸し看板は、太陽光発電設備やコインパーキングのような大きなイニシャルコストがかからず、比較的導入のハードルが低いのが特徴です。狭い土地や形が歪な土地でも導入しやすく、撤去も簡単にできます。
都市部の人通りの良い場所であればかなりの収入になることもあります。また、屋外広告物に関する条例や景観条例など法令による制限が多いため、導入を検討するにあたっては、自身の物件で導入できるのか事前に確認しておかなければなりません。
賃貸経営における経費の内訳
続いては、賃貸経営における経費の内訳について解説していきます。こちらも一棟アパート・マンション経営を想定した経費の項目を見ていきましょう。ここで紹介するのは、会計上経費として計上することが認められている項目です。
賃貸管理会社への管理委託手数料
物件を自主管理しない限り、賃貸管理会社へ管理業務を委託するケースがほとんどでしょう。この場合、管理会社へ支払う委託手数料は経費として計上可能です。家賃収入の5%程度に設定されているのが一般的です。
委託手数料に含まれるものとしては、主に次のようなコストが挙げられます。
- 入居者募集および契約業務
- 入居者対応業務
- 家賃回収業務
- 修繕手配業務
別途、建物管理費として以下が発生します。
- 日常清掃
- 定期清掃
- 受水槽点検清掃費用
- エレベーター点検費用 など
業務委託契約の内容によって含まれる費用が異なってくるため、契約締結時に業務内容をしっかりと確認しておくようにしましょう。
アパートローンの利息部分
アパートローン(不動産投資ローン)を利用して賃貸不動産を取得した場合、毎月ローンを返済していかなければなりません。毎月のローン返済額のうち、利息部分については経費計上が可能です。
一方、元本部分に関しては金銭貸借の返済分にあたるため費用としては認められず、経費計上することができません。
また、利息部分の中でも土地取得にかかる借り入れの支払利息と建物部分への金利とで扱いが異なります。どちらも経費計上できることに変わりはありませんが、土地部分への金利のみ、不動産所得が赤字であっても損益通算に含められない点に注意が必要です。
損益通算については、後の「賃貸経営における確定申告の注意点」で詳しく紹介します。
保険料
賃貸不動産にかかる火災保険や地震保険加入に伴う保険料も、不動産投資の経費として計上できます。各種保険は賃貸経営におけるリスクヘッジとしてとても大切なものであり、当然に必要経費として認められているのです。
賃貸経営では他に、管理の不備や老朽化などにより他人に損害を与えてしまった場合に備える施設賠償責任保険や、火災保険に付帯してつける各種特約などに加入するケースも多いですが、同様に保険料は経費として計上可能です。
仲介手数料
不動産仲介会社へ入居者の仲介を依頼して賃貸借契約を締結した場合、仲介手数料を支払ったとすれば経費として計上できます。
宅地建物取引業法(宅建業法)において、仲介手数料の上限は家賃1ヶ月分とされています。これは借主と貸主からもらう仲介手数料を合計したものであり、それぞれから受け取る仲介手数料については承諾がない限り、0.5ヶ月分を超えてはならないという決まりです。
このため、借主が不動産仲介会社へ家賃1ヶ月分の仲介手数料を支払い、貸主は手数料を負担しないというケースもあります。
なお、不動産仲介会社や管理会社が入居者を募集するにあたってかかる広告料を貸主が負担する場合も、経費として計上可能です。
修繕費
建物にかかる修繕費は経費計上が可能な費用項目です。
たとえば、入居者が退去した際には原状回復義務が生じますが、そのうちオーナー側で負担しなければならない分は修繕費に該当します。設備の故障や外壁などの定期的な補修といったものも建物の維持管理に必要な修繕と考えられるので、修繕費として経費計上できます。
一方、内外装や設備を元のものからアップグレードして住宅の価値を向上させるようなリノベーションは、修繕費として認められません。こうした改修は建物の維持管理に必要最低限なものとは考えられないためです。
リノベーションにかかった費用は「資本的支出」に分類され、複数年にまたがって減価償却しなければなりません。つまり、資本的支出となる費用については、工事した年の経費として一括計上することができないのです。
経費計上を考えるうえでは、実施した改修の費用が修繕費に当たるのか、資本的支出に当たるのか事前に確認しておいたほうがいいでしょう。
租税公課
不動産投資においてはさまざまな租税公課がかかってきますが、経費計上できる税金としては次のようなものが挙げられます。
- 固定資産税
- 都市計画税
- 登録免許税(賃貸用不動産取得時の登記に際して納税)
- 不動産取得税(賃貸用不動産取得時に納税)
- 印紙税(建物賃貸借契約書などに印紙を貼付して納税)
- 自動車税(賃貸経営に係る利用分のみ)
これらの税金はいずれも賃貸経営に直接関わる税金であるため、不動産所得計算上の経費として計上することが認められているのです。
一方、所得税・住民税・法人税は同じ税金でも経費計上が認められていません。3つの税金はオーナーの個人や法人にかかる税金であるため、賃貸経営によって生じる税金ではないためです。同じく賃貸経営に直接関連しない自動車税なども経費計上の対象とはなりません。
減価償却費
一般的に時が経つにつれて価値が低減していく資産を「減価償却資産」と呼び、減価償却費の取得費は資産の使用可能期間全てで分割して、一年ごとに減価償却費として経費計上するよう定められています。
不動産においては建物が減価償却資産であるため、法律に定められた使用可能期間(法定耐用年数)中、建物の取得価格に基づいた減価償却費を毎年経費計上できます。土地は時間の経過によって価値が低減する性質の資産ではないので、減価償却の対象ではありません。
減価償却費算出のベースとなる建物の取得価格には建物購入費用のほか、建築代金や測量費、古い建物の取り壊し費用、取得時の登記にかかる登録免許税なども含まれます。
また、法定耐用年数は建物構造によって異なっており、新築の場合木造住宅であれば22年、鉄骨鉄筋コンクリート造や鉄筋コンクリート造の住宅であれば47年などとなっています。それぞれの法定耐用年数に応じて償却率が定められていて、建物の取得価格に償却率をかけた金額を減価償却費として毎年経費計上するのです。
減価償却の方法としては「定率法」と「定額法」がありますが、建物については現在定額法で計算するよう定められています。
司法書士や税理士への報酬
不動産投資では、各種手続きを専門家に依頼することもあるでしょう。たとえば、不動産登記を司法書士に依頼したり、不動産所得に関する確定申告を税理士に依頼したりといったケースです。このような場合、司法書士や税理士へ支払う報酬は経費として計上できます。
万が一、入居者との間でトラブルが発生するなどして弁護士へ訴訟を依頼した場合も、弁護士に支払う報酬は経費計上が可能です。
通信費
不動産投資において、不動産会社や管理会社といったパートナーとの密なやりとりは大切です。パートナーとの連絡に用いるスマートフォンやパソコンといったツールは、賃貸経営になくてはならないものと言えるでしょう。
そのため、ツールの購入にかかる費用や携帯電話料金、インターネットプロバイダーへ支払う利用料、情報管理や収支管理を行うためのソフトウェア代金といった通信費も経費計上できます。
スマートフォンやパソコンをプライベートで使っている場合には、家事按分して、賃貸経営に係る分の費用のみを経費計上する必要があります。
旅費・交通費
不動産投資では、物件現地を訪問して物件の状況を確認したり、不動産会社や管理会社との打合せに赴いたりといったことが考えられます。移動に伴って支払った電車代や自動車のガソリン代などの旅費・交通費は、不動産投資に係る費用として経費計上が可能です。
なお、公共交通機関を利用した際には領収書が発行されないケースも多くあります。交通系ICカードであれば券売機で利用履歴を取得することができるので、内容を旅費精算書に記録しておくといいでしょう。
図書・新聞費
賃貸経営に関するノウハウを勉強するためや、情報を収集するためにかかった図書・新聞費も不動産投資の経費として計上できます。具体的には、不動産投資に関する書籍の購入費用、業界新聞の購読費、不動産投資関連のセミナー参加費、コンサルティング費用などが挙げられます。
ただし、不動産投資に関わるものであっても、資格取得費用は経費計上できないので注意が必要です。
交際費
不動産会社や管理会社など、不動産投資に直接関係する人との打合せや情報交換のために支払った飲食代は、交際費として経費計上できます。当然のことながら、家族や不動産投資と関係のない知り合いとの食事代、一人で食事した費用などは経費として認められません。
不動産投資に係る交際費であることを明確にするため、誰とどのような目的で食事をしたのか、記録をしっかりと残しておくのがおすすめです。
賃貸経営における確定申告の注意点
賃貸経営を行うにあたっては確定申告が必須となります。特に会社員として勤めている人だと、確定申告がどのようなものか正しく理解できていないという場合も多いのではないでしょうか。ここでは、賃貸経営における確定申告の注意点を5つ紹介していきます。
不動産所得が20万円以下でも確定申告をしたほうがよい
給与所得者が副業で不動産投資を行っているケースで、年間の不動産所得額が20万円以下であれば確定申告は義務ではありません。ここで気をつけたいのが、課税対象となるのは賃貸収入から前章で紹介したような経費項目を差し引いた「不動産所得」であるという点です。裏を返せば、年間の不動産所得が20万円を超える場合には確定申告が必須となります。
しかし、不動産所得が20万円以下で確定申告の義務がない人であっても、確定申告はしておいたほうがいいでしょう。なぜなら、確定申告を行うことによって節税につながる可能性があるからです。
例として、不動産所得は給与所得と合わせて損益通算が可能なため、不動産所得が赤字なら所得税・住民税を減らせる可能性があります。
前章で経費として計上できる費用項目を紹介しましたが、中でも減価償却費は実際に毎年支払っている費用ではありません。一方で経費計上は可能となるため、毎年の収支的にはプラスであっても不動産所得は赤字になるというケースもあるのです。
こうした場合には、不動産投資としての利益を確保しつつ、損益通算によって節税効果も期待できます。
青色申告を選択する
確定申告には白色申告と青色申告という2種類の申告方法があります。このうち青色申告には控除などさまざまな優遇措置が設けられているため、不動産投資で確定申告をする際には、できれば青色申告を選択するようにしましょう。
青色申告とは、個人事業主などが一定の方法に沿って記帳した内容に基づき、確定申告することにより税制優遇が受けられるというものです。ただ、白色申告よりも記帳方法が難しく、用意しなければならない書類も多くなっています。
白色申告よりも複雑な記帳が求められる青色申告ですが、主に次の3つのメリットがあることから、多少面倒であってもやったほうがいいと言えます。
- 青色申告特別控除(最大65万円)が受けられる
- 不動産所得に赤字がある場合、控除しきれない赤字を3年間繰り越せる(個人の場合)
- 配偶者や親族などに給与を支払っている場合の事業専従者給与控除の対象となる
上の3つの中でも大きな節税効果を見込めるのが、1つ目の青色申告特別控除です。青色申告特別控除は最大65万円ですが、最大額での控除を受けるには以下の要件を満たさなければなりません。
- 青色申告承認申請書を提出していること
- 賃貸経営が事業的規模であること
- 不動産所得に関する取引内容を複式簿記で記帳していること
- 会計処理が現金の出入金を基準とする現金主義でないこと
- 青色申告決算書を提出すること
- 申告期間内に必要書類を提出すること
- e-Taxによる申告、または電子帳簿保存を行うこと
これらの要件を満たさない場合には、55万円もしくは10万円の控除になるため注意が必要です。
事業的規模とは
65万円の青色申告特別控除を受けるための要件の1つとして、賃貸経営が事業的規模であることというのを紹介しました。「事業的規模」とは、一般的に不動産運営が事業的に行われているものであると判断される規模のことです。
線引きについて明確に法律で定められているわけではありませんが、国税庁の通達では次のように基準を定義しています。
(1)貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。
(2)独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。
国税庁ホームページ:https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/04/02.htm
(1)もしくは(2)に該当する場合、もしくは収入状況や資産の管理状況から考えて、これらの基準に準ずる戸認められる場合において、事業的規模として考えられるという基準を示しています。
不動産所得においては、事業的規模に満たない事業者は青色申告特別控除を最大10万円までしか受けられません。
損益通算
不動産所得は、その他の各種所得金額と合算して所得税額を計算する総合課税の対象であるため、損益通算が可能であるというのも確定申告上の大きなポイントです。
損益通算とは、赤字になっている所得と黒字になっている所得を合算できる仕組みのこと。不動産所得が赤字となっている場合、損益通算によって給与所得や事業所得の黒字から赤字分を差し引くことができるので、節税効果が期待できます。多く納めた税金の一部は後から還付されます。
なお、不動産所得における損益通算には不可規定が設けられている点に要注意です。次の2つのケースに当てはまる不動産所得の赤字は損益通算できません。
- 別荘など、主に趣味・娯楽・保養・鑑賞の目的で所有している不動産の貸付に関連するもの
- 不動産所得を算出するにあたり必要経費に算入した土地などを取得するために要した負債の支払利息分
特に注意したいのが2点目です。融資で土地・建物を購入して不動産投資を行うケースにおいて、土地代金分のローンに係る利息相当額は経費計上できるものの、損益通算の対象外となるので気をつけましょう。
税理士と相談
不動産投資における確定申告では、不動産所得額の計算や各種控除の確認など専門的知識を要する部分があります。近年ではe-Taxや民間のクラウドサービスの活用も広がっており、事業規模が小さなうちは自分で確定申告することも可能です。しかし、事業規模がある程度大きくなってくると申告する内容も複雑になってきます。
申告漏れや控除の申請漏れを防ぐためにも、一定以上の事業規模になってきたらプロである税理士に相談し、確定申告書類の作成を依頼するのがおすすめです。税理士へ支払う報酬は経費計上が認められていますので、報酬分の金額を課税対象から除くことができます。
事業規模が小さくても、初めての不動産投資で確定申告について不安があるのであれば、事前に税理士へ相談するのもいいでしょう。
まとめ
不動産投資・賃貸経営は大きなリターンを得られる可能性がある一方、リターンが大きくなるほど税金対策をしっかりと考える必要が出てきます。税金に関する知識が不足した状態で投資や賃貸経営を続けていると、本来控除されるはずの税金を余分に支払い続けていたというような事態になりかねません。
不動産投資・賃貸経営に関する簿記や税金の基礎知識を身につけておけば、適切な節税により最大限の投資効果を受けられるでしょう。
監修者
藤原 正明/大和財託株式会社 代表取締役CEO
昭和55年生、岩手県出身、岩手大学工学部卒。
三井不動産レジデンシャル株式会社で分譲マンション開発に携わり、その後不動産会社で収益不動産の売買・管理の実務経験を積む。
2013年に大和財託株式会社を設立。収益不動産を活用した資産運用コンサルティング事業を関東・関西で展開。
中小企業経営者、土地オーナー、開業医・勤務医、高年収会社員などに対して多様な資産運用サービスを提供している。
自社設計施工により高品質ローコストを実現している新築1棟アパート・マンション、中古物件のリスクを排除した中古1棟リノベーション物件、デジタルテクノロジーを活用した不動産小口化・証券化商品、利益最大化を実現する賃貸管理サービスなどを、顧客のニーズに合わせて組み合わせて提案できることが強みである。
資産運用領域で日本No.1の会社を目指し日々経営にあたっている。
マッスル社長としてYouTubeでも活躍中。
書籍「収益性と節税を最大化させる不動産投資の成功法則」や「収益性と相続税対策を両立する土地活用の成功法則」を発売中。