金融資産1億円保有者のための資産運用戦略 不動産投資を採り入れた資産防衛策とは? 

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金融資産を1億円保有している人は、一般的に「お金持ち」といわれます。実際、金融資産1億円以上を保有する世帯を富裕層と定義するケースもあり、その多くを企業経営者などが占めている状況です。金融資産1億円以上の富裕層となると、資産形成というよりも資産防衛の重要性が高まるため、資産運用についても特有の注意点があります。 

この記事では、分散投資と資産防衛の視点から金融資産1億円保有者の資産運用戦略について解説。不動産投資を採り入れた具体的な戦略も紹介します。 

金融資産1億円の人は日本にどれくらいいるのか 

一般的に「お金持ち」といわれる金融資産1億円保有者。日本には金融資産1億円以上の人がどれくらいいるのでしょうか。調査や統計データを通して、金融資産1億円を保有する世帯の数や特徴を明らかにしていきます。 

野村総合研究所の調査 

民間シンクタンクの野村総合研究所では、2005年以降継続的に、日本における純金融資産保有額別の世帯数および資産規模を推計しています。純金融資産保有額とは、世帯で保有する預貯金や有価証券、保険などの金融資産合計額から負債を差し引いた金額のこと。この金額をベースに総世帯を「マス層」「アッパー層」「準富裕層」「富裕層」「超富裕層」の5階層に分類し、各階層の世帯数と資産規模を求めています。 

5階層のうち「富裕層」に分類されるのは、準金融資産保有額が1億円以上5億円未満の世帯です。純金融資産保有額5億円以上の世帯は、一番上の階層である「超富裕層」に分類されます。 

同調査によると、2021年時点の富裕層・超富裕層は合計148.5万世帯いると推計されています。これまで最も多かった2019年の132.7万世帯から15.8万世帯増加しており、富裕層・超富裕層の純金融資産保有総額も上昇トレンドが継続している状況です。 

これは保有する金融資産の価格上昇や資産運用により「お金が働く」状態になることで、準富裕層の上位層が富裕層へ、富裕層の上位層が超富裕層へ移行したためと推察されます。 

出典:野村総合研究所「野村総合研究所、日本の富裕層は149万世帯、その純金融資産総額は364兆円と推計」 

富裕層には企業経営者が多い 

年々増加傾向にある純金融資産保有額1億円以上5億円未満の富裕層。この階層に位置付けられるのはどういった属性の人なのでしょうか。 

野村総合研究所は上記の調査において、富裕層の約1/3が企業経営者であることを明らかにしています。企業経営者が得た報酬を金融資産として運用し、資産を拡大していると考えられます。また、企業経営者はストック(資産)だけでなくフロー(報酬)も潤沢であるのが特徴です。 

人事院の「民間企業における役員報酬(給与)調査」(令和元年度)における役名別平均年間報酬を見ると、会長が6,345万5,000円、社長が4,622万1,000円となっています。国税庁「令和4年分 民間給与実態統計調査」で日本の給与所得者全体における年間平均給与が458万円であることを踏まえると、経営者のフローの潤沢さは明らかです。 

企業経営者はこうした潤沢なフローを元手に資産運用できるため、富裕層・超富裕層になりやすいと考えられるでしょう。 

出典:人事院「民間企業における役員報酬(給与)調査」 

出典:国税庁「令和4年分 民間給与実態統計調査-調査結果報告-」 

なぜ金融資産1億円が富裕層の目安なのか 

前章の野村総合研究所の調査でも純金融資産1億円を富裕層の指標としているように、日本では金融資産1億円以上の世帯を富裕層として定義するのが一般的です。なぜ金融資産1億円が富裕層の目安なのか、理由を見ていきましょう。 

国際的にはミリオネアが目安 

日本では金融資産1億円が富裕層の目安とされますが、国際的には「ミリオネア」が富裕層の目安です。ミリオネアとは金融資産が100万ドル(ミリオンダラー)を超える人のこと。2024年1月現在は大きく円安傾向にあるため、円に換算すると約1億5,000万円の金融資産を保有する人が富裕層ということになります。 

クレディ・スイスが発表した「グローバル・ウェルス・レポート 2022」によると、世界全体のミリオネアの人数は2021年時点で6,248万3,000人でした。国別に見た場合、世界で最も多くのミリオネアを抱えているのはアメリカで2,448万人。次いで中国の619万人となっています。日本は336万6,000人で世界第3位、それに284万9,000人のイギリスが続いています。 

先ほどの野村総合研究所の調査において、日本では富裕層・超富裕層が増加傾向にあると説明しました。しかし、クレディ・スイスの調査では、2020年から2021年の1年間で日本のミリオネアが39万5,000人減となっています。これは昨今の大幅な円安により、米ドル換算の資産額が大きく減少したことが原因と考えられるでしょう。実際、同じようにミリオネアが減少しているイタリア・ドイツ・オランダ・トルコなども、対米ドルの為替レートが下落している国々です。 

出典:クレディ・スイス「グローバル・ウェルス・レポート 2022」 

4%ルールから考えると 

ここで資産運用における「4%ルール」を考えてみます。「4%ルール」はアメリカ・トリニティ大学のグループが発表した「トリニティ スタディ」と呼ばれる論文で導き出された、資産運用における一つのシナリオです。 

具体的には、アメリカの資産運用実績をベースに債券:株式=50:50で投資した場合、毎年の引き出し額をポートフォリオの4%未満に抑えれば資産が目減りするのを防げて、30年後でも資産が維持できるという説です。4%というのは、アメリカの株価上昇率7%(S&P500の成長率)から物価上昇率3%を差し引いて導かれています。 

ポートフォリオの状況や各国の物価上昇率の水準などによって数字は変化するものの、資産運用における一つの基準として「4%ルール」は認識しておきたいところです。これを踏まえて、4%が金融投資の利回りの目安と考えられています。 

1億円の金融資産を保有しているとして4%は400万円。20.315%の金融所得課税を差し引いても318万7,400円となりますので、基本的な生活費はまかなえるでしょう。つまり、金融資産が1億円あれば、運用のリターンだけで生活できるため資産が目減りしないことになります。このことから、日本では金融資産1億円が「富裕層」の目安となっているのです。 

金融資産1億円は「左うちわ」と言えるのか 

近年「FIRE」が注目を集めています。FIREとは「Financial Independence, Retire Early」の略で、若い頃から資産形成を積極的に行って投資リターンだけで生活できる状態を作ることで、早期に仕事を引退して自由に生きようという考え方です。先の4%ルールはFIREを実践する文脈でしばしば用いられます。 

例えば、金融資産5,000万円で早期退職すると4%分の年間200万円で生活しなければなりません。これでは生活が厳しいと感じる人も多いことでしょう。しかし、1億円の金融資産を築ければ、先述のとおり年間400万円のリターンを得られるので十分に生活できると考えられます。 

しかし、年間配当所得が400万円というのは、果たして生活の心配が一切なく、安楽に暮らせる「左うちわ」といえるような状況なのでしょうか。「金融資産1億円」と聞くとお金持ちのイメージを持つかもしれませんが、それは本当に豊かな生活を継続的に送れる水準なのでしょうか。 

結論からいえば、金融資産1億円は資産運用が不要な「ゴール」とは言い切れません。一人暮らしであれば年間400万円で十分かもしれませんが、家族がいるとなれば経済的に厳しくなる可能性があります。不足分を資産から切り崩してしまうとリターンが減少して、いつしか資産が縮小していくリスクもあるでしょう。 

金融資産1億円を保有していても、継続した資産運用を意識することが重要です。 

金融資産1億円の資産運用では分散投資を意識する 

ここからは、金融資産1億円を保有する人が行うべき資産運用について解説していきます。1億円の金融資産を運用するにあたって意識したいのが分散投資です。分散投資によるリスクヘッジが資産拡大・資産防衛の両面から重要になるでしょう。 

分散投資とは 

資産運用におけるリスクをヘッジする方法の一つが分散投資です。投資先を分散する方法には「資産の分散」「地域の分散」「時間(時期)の分散」の3つがあります。 

「資産の分散」とは、株式・債券・不動産といった異なる資産に投資する、同じ株式のなかでも1社ではなく複数社に投資するなど、投資する資産や銘柄の種類を分散することです。1つの資産・銘柄に投資を集中させると、値下がりしたときに資産額が大きく下落してしまいます。資産の分散により、各資産・銘柄の値動きによるリスクを軽減できるでしょう。 

「地域の分散」とは、国内株式と外国株式、先進国市場と新興国市場など、値動きの異なる複数の地域に投資先を分散する手法です。ある地域の経済状況や政治状況が悪化して市場が冷え込んだとしても、ほかの地域への投資分でカバーできる可能性があります。 

「時間(時期)の分散」とは、一気に多額の投資をするのではなく、少額の定期定額投資を行うことでリスクを分散する手法です。定額投資だと、投資対象の価値が下がっているときは投資口数が増え、価値が上昇しているときは投資口数が減少します。これを「ドル・コスト平均法」と呼び、長期的に見ると1回の投資口数が平準化され、仮に大きな経済ショックが発生したとしても損失を小さくすることが可能です。 

3つの分散方法を組み合わせることにより、資産運用のリスクをより軽減できると考えられます。

アセットアロケーション 

アセットアロケーションとは、投資する金融資産の資産クラス(アセットクラス)と投資割合の配分(ロケーション)を決定することです。簡単にいえば「資産の配分をどうするか」を意味し、アセットアロケーションの意識を持つことは資産の分散において重要とされます。 

アセットアロケーションの基礎となるアセットクラスとは、資産の種類や投資先による分類などを指します。代表的なものとしては「国内株式」「外国株式」「国内債券」「外国債券」「国内REIT」などが挙げられるでしょう。アセットクラスの分類に明確な定義はありません。 

リターンの大きさやリスクの高低といった資産運用の方針によって、適したアセットアロケーションは異なります。自身のリスク許容度や投資目的に応じて、アセットクラスごとの投資配分を適切に設定しましょう。資産防衛を目的とするなら、国内外・資産の種類を広く分散したアセットアロケーションにするのが得策です。 

ポートフォリオ 

先ほどから何度か出てきている「ポートフォリオ」とは、投資の世界において「資産の内訳」を意味します。具体的には、アセットクラス内の組入れ銘柄や銘柄ごとの保有数量等に関する情報のことです。ポートフォリオはアセットクラスの中身にあたるものと考えればよいでしょう。 

投資方針を決めるときは、アセットアロケーションでアセットクラスごとの配分を決定し、その配分のなかで詳細な銘柄の種類と保有数量を決めていくというのが基本的な流れです。 

ポートフォリオを決定して実際に運用を始めると、資産の種類や銘柄によって値動きが異なるため、次第に当初の配分比率からずれていってしまいます。一度投資したら放置するのではなく、運用実績や経済状況などを見極めながら、自分で決めたアセットアロケーションに沿ってポートフォリオを適宜見直すことが大切です。このように比率を見直すことを「リバランス」と呼びます。 

国際分散投資 

株式・債券・不動産などアセットタイプの分散も大切ですが、もう一つ意識したいのが投資先の国を分散させることです。国内株式や国内債券などの国内資産だけに投資するのは、すなわち日本円のみで資産を保有することを意味します。 

昨今、アメリカと日本の金利差を主因とする円安傾向が続いています。富裕層の定義を説明する際に取り上げた「グローバル・ウェルス・レポート 2022」にもあったとおり、世界における日本の富裕層の資産価値は円安により低下しています。資産を円のみに集中するというのは、日本経済や日本の金融政策にすべてを賭けるということであり、リスクが大きいと言わざるを得ません。 

国内を対象とした投資に欧米や新興国など海外への投資を組み入れれば、リスク分散につながるでしょう。 

資産形成のフェーズから資産防衛のフェーズへ 

金融資産1億円ともなれば、資産運用をスタートしたころの「資産形成のフェーズ」から「資産防衛のフェーズ」に移行してきていると考えられます。以下では、資産防衛の観点で必要となる対策を見ていきましょう。 

インフレへの対策 

金融資産1億円の資産防衛のために必要な対策の一つがインフレへの対策です。インフレによってマイナスの影響を最も受けやすいと考えられるのが現金や預貯金です。 

例えば1個100円で購入できたものが、翌年には10%のインフレにより1個110円に値上がりしたとしましょう。このとき現金や預貯金は額面どおり100円のままですが、前年100円だった商品を買うことはできなくなります。つまり、インフレによって現金や預貯金の資産価値が目減りしたと言い換えられるのです。 

デフレが長く続いてきた日本ではイメージしづらいですが、資産を運用すれば拡大できるチャンスがあるため、投資の世界では「現金は現在価値が最も高い」と考えます。インフレ局面では現金や預貯金の資産価値は自然と目減りしていくため、金融資産を銀行預金のままにしておくのはリスクのある行為です。 

先述した「4%ルール」では物価上昇率3%を前提にしていたものの、現実的に世界ではそれを上回るインフレが記録されています。このまま手をこまねいていれば資産価値が目減りしかねません。現預金を資産運用に振り分けてインフレ対策を講じることが、大切な資産の防衛につながるでしょう。 

税金への対策 

金融資産1億円を保有している人にとって税金は大きなネックです。潤沢な金融資産を保有している人の多くは給与や報酬も高額であると考えられ、一般的な会社員などに比べて課税額も高額になるでしょう。そのため、節税による税金対策は資産防衛に大きな効果を発揮します。 

日本の所得税では累進課税制度が採用されており、課税所得が高い人ほど税率も高くなる仕組みです。課税所得4,000万円以上の高所得者における税率は45%となっており、控除額は479万6,000円です。さらに、住民税10%がかかります。よって、高所得になればなるほど、税金の負担は大きくなります。 

高所得者の税金対策としておすすめなのが不動産投資です。個人で不動産投資を行うケースでは、物件購入によって耐用年数に応じて減価償却費を経費として計上できます。不動産投資で得た収入は不動産所得に分類され、給与所得や事業所得との損益通算が可能です。不動産所得を帳簿上赤字にすることで、損益通算によって課税所得を圧縮し、所得税の大きな節税が実現できるのです。 

不動産投資は金融資産1億円を所有する富裕層の節税方法として、資産防衛にも役立つ方法なのです。 

出典:国税庁「No.2260 所得税の税率」 

あやしい投資話への対策 

金融資産1億円を保有するほどの資産家となると、詐欺まがいのあやしい投資話が舞い込むケースも多々あります。おいしい話だと思って投資を始めてみたものの、実際にはだまされて資産を根こそぎ奪われるような事態になりかねません。資産を防衛するには、あやしい投資話を嗅ぎ分ける嗅覚を持つことも大切です。 

資産家を狙った投資詐欺で代表的な手法が「ポンジ・スキーム(出資金詐欺)」です。ポンジ・スキームとは、高利回り・少額から投資可能・毎月配当ありという魅力的な条件で投資家に出資させつつ、実際には集めた出資金を自転車操業的に配当に回す詐欺手法。投資会社はある日突然破綻してしまうため、だまし取られた資金を回収するのはほぼ不可能です。名前はアメリカの有名詐欺師チャールズ・ポンジから取られたもので、さまざまな種類の投資商品で見られる手法のため注意しましょう。 

また、為替レートの変動で利益を得るFX(外国為替証拠金取引)、新興国などを中心に海外の見知らぬ金融商品に投資するオフショア投資などもハイリスクな投資と言わざるを得ません。無登録で金融商品取引業を行っている投資会社には、詐欺まがいの投資案件があるのも事実です。 

不動産投資においても、ワンルームマンション投資はキャピタルゲイン狙いで利回りが低く、リスクも大きいことから、避けるべき投資手法といえます。 

一見魅力的に見える投資話であっても、真偽をしっかり見極められるだけの投資リテラシーが必要です。 

相続への対策 

金融資産を1億円も有していると、資産家の年齢によっては将来の相続にも考えを巡らす必要があります。相続対策は世代をまたいだ資産防衛につながるでしょう。相続対策には大きく分けて、円満な相続のための対策と相続税節税のための対策の2つがあります。 

1つ目の円満な相続のための対策としては、遺言書を書いておいて相続人同士のトラブルを未然に防ぐ、財産を整理したうえで財産目録を作成しておくといった方法が考えられます。 

2つ目の相続税節税のための対策で代表的なのが、現金や預貯金をほかの資産に組み換える方法です。現金や預貯金は額面どおりの金額を相続税評価額として相続税が課せられるため、相続人の税負担が重くなります。一方、不動産は特有の方法で相続税評価額を計算するのが特徴です。不動産の相続税評価額は時価よりも低くなるため、不動産投資による資産運用は相続税の節税にも有効です。 

金融資産1億円を所有しているのであれば、相続対策で世代をまたいだ資産防衛に努めましょう。 

不動産投資を採り入れた具体的戦略 

続いては、金融資産1億円を所有する人が資産運用をする場合において、不動産投資を採り入れた具体的な投資戦略のシミュレーションを紹介します。 

アセットアロケーションのシミュレーション 

さっそく不動産投資をアセットに採り入れた投資戦略を想定してみます。ここでは、以下のような少しオフェンシブなアセットアローケンションでシミュレートしてみましょう。 

想定するアセットアロケーション 

アセットの種類 配分比率 金額 
現金・銀行預金(緊急時の生活資金) 25% 2,500万円 
投資信託(インデックスファンド) 25% 2,500万円 
債券投資(先進国国債・上場企業社債) 25% 2,500万円 
不動産投資 25% 2,500万円 

金融資産1億円のうち、不動産投資には25%・2,500万円を振り分ける想定です。 

不動産投資のおおまかなシミュレーション 

上記のアセットアロケーションで資産運用を行う場合における、不動産投資部分をシミュレートしていきます。 

レバレッジで資産拡大を促進 

不動産投資に投下する2,500万円は自己資本として、物件購入における頭金に充てるものとします。金融機関による融資を併せて活用することにより、投下する2,500万円を大きく上回る金額の収益物件を購入可能です。このように融資を用いて、少ない投資資金で大きな投資効果がもたらされることを「レバレッジ効果」と呼びます。 

多くの投資手法は信用取引などを除き、自己資金の範囲内でしか投資ができません。投下できる資金の分だけリターンが期待できることになります。これに対し、不動産投資はレバレッジ効果により自己資本以上の投資効果を得られるため、資産を効率的に拡大できる可能性があるのです。融資条件は収入や資産状況といった個人の属性に左右されますが、金融資産1億円を保有する人は金融機関の評価も高く、好条件の融資を受けられるでしょう。 

手残りと自己資本利回り 

物件の概要を以下のように想定します。 

●築27年・一棟RC造  

●物件価格 2億6,500万円 

●自己資金 2,500万円  

●諸費用 1,000万円 

●年間満室想定賃料 2,255万円(表面利回り8.5%)  

●純営業収益(NOI) 1,512万5,000円 

●総収益率(FCR) 5.5%  

●借入金額 2億5,000万円(元利均等返済) 

NOIに占めるローン返済比率が50%と仮定すると、年間の税引前キャッシュフローは756万2,500円。これが1年間で手元に残るお金ということになります。 

ここから自己資本利回り(CCR)を求めてみます。自己資本利回りとは、年間で得られる手残り(税引前キャッシュフロー)を自己資本で割って算出する利回りです。この数値が高いと、投下した自己資本に対して効率的にリターンを得られていることを指します。 

CCR = 756万2,500円 ÷ 2,500万円 × 100 ≒ 30.25% 

今回の想定におけるCCRは30.25%という高い数値になります。 

先ほど示したアセットアロケーションでは、他のアセットクラス「現金・銀行預金」「投資信託(インデックスファンド)」「債券投資(先進国国債・上場企業社債)」が利回り0~数%のパフォーマンスなのに対し、驚異的なパフォーマンスを実現できたのは、不動産投資特有のレバレッジ効果のおかげといえるでしょう。 

不動産投資のリスク管理 

不動産投資は金融資産1億円保有者の資産防衛策として有効であるものの、特有のリスクも存在するため、運用に際してはリスクコントロールが必要となります。不動産投資の代表的なリスクは次のとおりです。 

  • 空室リスク 
  • 家賃滞納リスク 
  • 修繕リスク 
  • 金利上昇リスク 

以下ではそれぞれのリスクについて詳しく解説します。 

空室リスク 

不動産投資におけるリスクのなかでも重要度の高いものが空室リスクです。空室になると当該住戸からの賃料収入が入らなくなります。空室率が上昇すればますます家賃収入は減ってしまうでしょう。 

現在の不動産投資は、物件購入時と売却時の差益によって生まれるキャピタルゲインではなく、継続的に入ってくる家賃収入によるインカムゲインを狙うのがメジャーです。空室の発生はインカムゲインの減少につながり、キャッシュフローの悪化を直接的に招いてしまいます。空室をいかに減らすかというのは、不動産投資を軌道に乗せるために重要なポイントです。 

空室リスクを軽減する方法は大きく2つあります。 

1つは、投資したいエリアのマーケットをより詳細に分析すること。空室率を下げるには、最寄り駅や町丁目単位の狭いエリアにおける賃貸ニーズを把握し、ターゲットに合った住宅を提供すべきです。分析の結果、賃貸住宅が供給過剰で十分なニーズを見込めないようであれば、そのエリアの物件には投資しないというのも一つの判断です。 

もう1つは、顧客満足度の高い物件管理を行っている管理会社を選ぶこと。同じような条件の物件が複数あるとき、管理状態の良し悪しが借り手にとっての重要な判断基準となります。また、入居付けに強みを持つ不動産仲介会社の協力を得ることも必要です。信頼できる管理会社・仲介会社をパートナーにすることで、空室による減収の影響を小さくできるでしょう。 

家賃滞納リスク 

空室リスクと並んで注意したいのが家賃滞納リスクです。これは、入居者が家賃を滞納してしまい、本来入るはずの賃料収入が入らなくなってしまうリスクを指します。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会の調査によると、賃貸住宅の1ヶ月滞納率は0.8%、2ヶ月以上滞納率は0.3%となっています(※)。賃貸経営では意識しておくべきリスクといえるでしょう。 

※出典:公益財団法人日本賃貸住宅管理協会 第27回賃貸住宅市場景況感調査 日管協短観 

家賃滞納は単に家賃収入が入ってこないというだけでなく、会計上の問題・時間コストの問題の2つの面から非常に厄介なリスクです。 

入居者が滞納している間も賃貸借契約は存在していることから、家賃が入ってこなくても会計上は未収金として売上に入れなければなりません。未収金は課税売上に含まれることになり、キャッシュフロー上は収入がないにもかかわらず税金はかかってしまうのです。(ただし、要件を満たせば、貸倒損失として経費計上が可能です。) 

さらに、解決までに時間がかかることも問題です。借地借家法の正当事由制度は賃借人保護を目的とした法律のため、通常3ヶ月以上の滞納実績がないと立ち退きを要求できません。訴訟から強制代執行にもつれこんだ場合、滞納開始から10ヶ月程度は家賃の入らない状態が続くことになるでしょう。 

その期間、ほかの入居者を入居できれば得られるであろう家賃収入を失うことになるのです。賃貸経営における機会損失は計り知れないといえます。 

厳正な入居者審査を行う、家賃保証会社に加入するといった対策により、家賃滞納を未然に防ぐことが大切です。 

修繕リスク 

不動産投資では修繕リスクも想定する必要があります。建物や住宅設備は経年劣化していくため、時間が経過するほどにメンテナンスの必要性は高まるものです。外壁・屋根塗装、壁紙やフローリングの張り替え、古くなった配管の交換、故障した水回り設備の更新など、メンテナンスが必要な箇所は多岐にわたります。また、退去があった場合の原状回復工事も見込むべきでしょう。 

定期的にやってくる大規模修繕に備えて資金を積み立てておくことはもちろん、突発的に発生した故障や不具合に対応できるだけの予備費も想定しておきたいところです。費用不足で修繕すべき箇所を放置していると、入居付けが厳しくなって空室リスクにつながります。常に修繕リスクが潜んでいることを意識し、不具合があった場合には迅速に対応できるよう、資金と体制を準備しておきましょう。 

金利上昇リスク 

不動産投資にあたっては金利上昇リスクも忘れてはなりません。物件購入に際して借り入れたローンの金利が返済期間中に上昇し、当初計画よりも月々の支出額が大きくなってしまうリスクです。急激な金利上昇局面が到来した場合、返済金額が収入額を上回り、赤字経営に陥る危険性もあります。 

日本では日銀のマイナス金利政策により長らく超低金利と呼ばれる時代が続いてきました。しかし、いよいよ金融緩和の出口に向けて舵を切るのではないかとの見立てもあり、今後金利が上昇する可能性は否定できません。 

自己資金の状況や思い描く出口戦略などに合わせ、資金計画をしっかりと立てておきましょう。

まとめ 

金融資産1億円保有者は「富裕層」と位置付けられることが多く、それだけ資産があれば成功者のイメージを持つかもしれません。4%ルールにしたがえば配当所得のみで最低限の生活は送れるものの、豊かな暮らしをするには物足りなさを感じるでしょう。4%の運用益は保証されているわけでもなく、金融資産が1億円あったとしても一生安泰とはいえません。 

1億円の金融資産があるからこそ、これまでの資産形成から資産防衛へと運用のスタンスを切り替えつつ、効果的なインカムゲインの獲得と安定的な資産運用を目指すべきではないでしょうか。アセットアロケーションに不動産投資を加え、適切なリスクコントロールを行って資産運用を図れば、QOLのさらなる向上が期待できるでしょう。 

監修者

藤原 正明/大和財託株式会社 代表取締役CEO

昭和55年生、岩手県出身、岩手大学工学部卒。
三井不動産レジデンシャル株式会社で分譲マンション開発に携わり、その後不動産会社で収益不動産の売買・管理の実務経験を積む。
2013年に大和財託株式会社を設立。収益不動産を活用した資産運用コンサルティング事業を関東・関西で展開。
中小企業経営者、土地オーナー、開業医・勤務医、高年収会社員などに対して多様な資産運用サービスを提供している。
自社設計施工により高品質ローコストを実現している新築1棟アパート・マンション、中古物件のリスクを排除した中古1棟リノベーション物件、デジタルテクノロジーを活用した不動産小口化・証券化商品、利益最大化を実現する賃貸管理サービスなどを、顧客のニーズに合わせて組み合わせて提案できることが強みである。
資産運用領域で日本No.1の会社を目指し日々経営にあたっている。

マッスル社長としてYouTubeでも活躍中。
書籍「収益性と節税を最大化させる不動産投資の成功法則」や「収益性と相続税対策を両立する土地活用の成功法則」を発売中。

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