不動産投資の出口戦略とは? 物件売却の最適時期をパターン別に解説

投稿日:
更新日:
  • Facebookでシェアする
  • twitterでシェアする
  • はてなブックマークでシェアする
  • LINEででシェアする

不動産投資にとって、物件の売却は「出口戦略」の一つになります。アパートやマンションなどの収益物件を運用して収益を出していても、最終的に投資が成功したかどうかは、物件を手放すときまで分かりません。そこでこの記事では、物件売却に最適なタイミングも含め、不動産投資における「出口戦略」の重要性について解説します。

不動産投資にとっての出口戦略の重要性

不動産投資では出口を迎えてはじめて、トータルでプラスが出たかどうかを把握できます。なぜそれほど出口戦略が重要だといわれるのでしょうか。不動産投資には出口が必ずあること、その成否で投資の結果も決まるといわれています。今回はこれらを中心に掘り下げていきます。

不動産投資には出口が必ずある

どれだけ利回りが高く、稼いでくれる素晴らしい物件でも、いつかは出口を迎えるのが不動産投資です。賃貸不動産の市場はつねに変化しているため、リスクがいつ顕在化するか分かりません。購入時には賃貸需要があった物件でも、周辺環境が変わって需要が低下することもあり得ます。例えば、大学のキャンパスや大企業の工場などが立地している地域では、大学生や工場で勤務する社員の住居として需要が見込めるでしょう。しかし、大学や工場が撤退してしまうと、途端に需要がなくなるリスクがあります。

市場の動向以外にも減価償却を計上できる期間が終了するときや、大規模修繕が近い時期なども売却のタイミングです。売りどきを誤ると余分な費用が発生することで、大きな損失を出す可能性もあります。別の方法を選択するのが適切なケースもあるでしょう。いずれにしても不動産投資を始めたら、出口はつねに意識しておく必要があります。

出口戦略の成否で不動産投資の成否が決まる

不動産投資ローンを活用して物件を購入した場合、売却代金でまずローン残債を一括返済し、そのうえで運用期間中の収益や節税額の計算をしてはじめてトータルの成績が分かります。不動産投資で発生する利益には2種類あり、そのひとつがキャピタルゲイン、もうひとつがインカムゲインです。キャピタルゲインは物件を売却して得られる売却益、インカムゲインは物件を運用し続けることで入ってくる家賃収入などが該当します。

キャピタルゲインは売却がうまくいけば大きな儲けを生み出せるものの、不動産市場の動向によっては逆に大きな損失を出す可能性もあります。賃貸経営が順調で運用中はプラスを維持できていても、売却で大きなマイナスを出せば積み重ねたインカムゲインが吹き飛んでしまうかもしれません。

一方で、運用中はマイナスが続いていても、売却で大きなキャピタルゲインを得られればトータルの収支をプラスで終わらせることが可能です。そのくらい出口戦略の成否は、不動産投資の行方を左右するものだということを理解しておきましょう。

売却のタイミングはいつか

出口戦略を検討する場合、収益物件売却のタイミングはいつがいいのでしょうか。出口戦略として最適な売却のタイミングは1つではありません。ここからは具体的にいくつかのパターンを詳しく解説します。

不動産市場の動向

一般的には不動産市場の動向によって、不動産価格も変動します。不動産価格全体が高くなっている時期には物件も高く売れる可能性があるため、物件によっては大きなキャピタルゲインになるのもあり得ます。

具体的に2022年の動向をみてみましょう。国土交通省が2022年9月20日に発表した7月1日時点の基準地価は、全用途の全国平均で前年に比べて0.3%上昇し、3年ぶりのプラスです。住宅地については1991年以来、実に31年ぶりに上昇しました。(2023年3月時点)

三大都市圏の住宅地でも、東京圏と名古屋圏では2年連続上昇し、大阪圏でも下落から上昇に転じています。地方圏では札幌市と仙台市、広島市および福岡市の地方四市では、全用途平均や住宅地、商業地も上昇が継続している状況です。

その他の地域は下落しているものの、下落率が縮小されているなど、新型コロナウイルスの影響で冷え込んでいた状況からは回復傾向にあります。住宅地では特に都市の中心部や、生活の利便性が高い地域の需要は堅調です。 また、国土交通省が毎月発表している不動産価格指数によると、不動産価格、特にマンション価格が2013年以降一貫して上昇しています。収益物件のマンション・アパート(一棟)の不動産価格指数は、2010年を100とすると2022年10月で156.0です。(2023年3月時点)

※出典
国土交通省 プレスリリース「不動産価格指数、住宅は前月比 0.8%上昇、商業用は前期比 0.9%上昇~不動産価格指数(令和4年10月・令和4年第3四半期分)を公表~」https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001584492.pdf

国土交通省「令和4年都道府県地価調査の概要」https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001513492.pdf

長期所有か短期所有か

土地や建物などの不動産を売却したときにかかってくる譲渡所得は、物件を所有していた期間によって税金の計算が異なっています。所有期間が5年以下の短期譲渡所得は、所得税が30%、住民税が9%、復興特別所得税(2037年まで)が0.63%で合計39.63%となります。一方、所有期間が5年を超える長期譲渡所得は、所得税率15%、住民税率5%、復興特別所得税0.315%で合計20.315%となり、かなり税率が低く設定されています。

売却時の譲渡所得所有期間所得税住民税復興特別
所得税
合計
短期譲渡所得5年以下30%9%0.63%39.63%
長期譲渡所得5年を超える15%5%0.315%20.315%

5年以下か5年を過ぎるかで税率が倍近く違うため、売却は長期所有になった段階で考えてもいいでしょう。なお、5年以下や5年を超えるという基準は譲渡した年の1月1日時点であり、物件を購入した日ではありません。長期譲渡所得は、譲渡した年の1月1日で所有期間が5年を超えるものを指します。「物件を購入してからお正月が6回来たとき」が、長期譲渡所得になると覚えておくといいでしょう。

減価償却期間が終了

減価償却は建物などの固定資産の購入費用を耐用年数に応じ、分割して費用計上できる仕組みです。金額自体が大きい不動産の減価償却費は、費用として計上することで赤字が出る可能性もあります。不動産所得は給与所得や事業所得などほかの所得と損益通算ができるため、課税対象額を圧縮できます。

ただ、支払い自体は物件の購入時に済んでいるため、実際にはお金が出ていかない支出です。帳簿上は赤字になっていても、手元に収益が残るメリットもあります。減価償却期間が終了したら、以後は減価償却費が費用計上できなくなる分、課税所得が大きくなるので所得税・住民税のアップが避けられません。もし、節税が目的で不動産投資を行っている場合は、減価償却期間が終了したら出口を迎えると考えておくといいでしょう。

デッドクロスが見えてきたら

デッドクロスとは、ローンの元金返済額が減価償却費を上回った状態を指します。減価償却期間は会計上、減価償却費を費用として計上しているにもかかわらず、実際にはお金は出て行っていません。一方で、ローンの返済では現実に支払いが生じているものの、元金返済額は費用計上できないところがポイントです。特に元利均等返済でローンを組んでいる場合、返済初期は利息の割合が多く、年数が経過するにつれて元金の割合が増えていきます。

元金の割合が増えてくる時期に減価償却期間が終了すると、デッドクロスが起きやすくなるため要注意です。デッドクロスに入ると税引前キャッシュフローは変わらないのに帳簿上は大幅黒字になることがあります。利益が大きくなればそれだけ支払う所得税・住民税が上昇するため、デッドクロスが見えてきたタイミングで売却するという投資判断も選択肢のひとつです。特に耐用年数が近い、または超えている中古物件を購入した場合は減価償却期間が短くなり、デッドクロスの時期を早く迎えます。

入居者が退去したタイミング

一棟マンションや一棟アパート、入居者がいる状態の区分マンションを売却しようとすると、物件は引き続き投資用として売買されることになります。いわゆるオーナーチェンジ物件で、売却の対象が投資家だけに限られます。

しかし、区分マンションや戸建て賃貸を投資対象にしている場合、入居者がいなければ実需物件(所有者本人が自己使用をする目的の不動産)として販売することが可能です。自宅として住む場所を探している人や、セカンドハウスの購入を検討している人にまで売却相手の対象が広がるため、売れる可能性が高くなります。

特に実需物件として似たような条件で売りに出されている物件が多く、実際に取引が活発な地域なら十分需要が見込めるでしょう。立地のよい場所にあったり、間取りや設備がニーズにマッチしていたりすると、収益物件として売り出すときよりも高い価格で売却できるチャンスも増えます。

ただし、一棟ものは満室に近いオーナーチェンジ物件のほうが購入後も安定した収益を見込めるため、高値で売れる可能性があります。

大規模修繕工事の実施前

マンションやアパートなどの建物は、日常的な維持管理やメンテナンスをしっかり行っていても、徐々に劣化していくのは避けられません。一般的には築15年程度経過すると、第1回目の大規模修繕の時期を迎えます。区分マンションのように管理組合が修繕計画を立て、十分な修繕積立金を積み立てていても、思った以上に修繕費が発生して追加の費用を請求されたり、修繕積立金が値上げされたりする可能性もあります。

一棟マンションや一棟アパートともなれば共用設備も多くなり、屋根や外壁の修繕も含めて文字通り大規模な修繕が必要です。多額の修繕費用の支出が予想されるため、その前に売却するという判断もあり得ます。収益物件は築年数が経過すればするほど、家賃が下がることはあっても、上がる可能性は低いのが一般的です。築古になって家賃が下がったり、空室率が高くなったりすると、大規模修繕にかかった費用を家賃収入でカバーしにくくなることも考えられます。大規模修繕前にうまく売却できれば、大きな支出を抑えることが可能です。

出口戦略を成功させるためのポイント

不動産投資には必ず出口があり、出口戦略は投資そのものの成否も左右するほど重要なものです。不動産投資を成功に導くためにも、以下で解説する出口戦略を成功させるための3つのポイントをしっかり把握しておきましょう。

売却しやすい物件を取得する

不動産投資にとって重要な出口戦略は、最初から想定しておく必要があります。物件を購入してからではなく、購入前から考えることがポイントです。特に出口戦略として売却を見据えているのなら、購入の段階で将来売却しやすい物件を見定めることが大事になります。築年数が経てば経つほど劣化が進み、空室率が上がってくることも考えられます。家賃を下げなければならない状況になるケースはあっても、上げられることは少ないでしょう。

不動産は一度購入してしまうと、立地を変えることはできません。購入してから出口戦略として売却するのが難しいと思っても取り返しがつかないため、購入前から出口戦略を練っておくことが大切です。具体的には賃貸需要がある立地であること、供給過多でないこと、間取りや設備が入居者のニーズに合っていることなどをチェックしましょう。物件によっては実需として売却する戦略もありますが、オーナーチェンジ物件として売却する場合は投資家目線で判断することが大事です。

また、次の買主も金融機関の融資を使って購入するケースが大多数なので、次の買主に融資が付くかどうかが重要になります。金融機関にとっても担保価値のあると判断できる物件を選択するようにしましょう。

投資目的に合わせて出口戦略を立てる

同じ不動産投資でも、資産形成や節税、相続対策など、人によって投資目的はさまざまです。投資する目的が違えば当然、出口戦略も違ってきます。例えば節税を目的とするならば、課税所得を圧縮できるように減価償却費が大きく取れる物件を選択するのが効果的です。また、物件の所有期間が5年以下だと短期譲渡所得として所得税や住民税が高くなってしまうため、減価償却が終了した時点、かつ長期所有になった時期に売却するのがおすすめです。

資産形成を目的としているのなら、中・長期的に継続してインカムゲインを得つつ、売却や新しい資産への組み替えを検討する必要があるでしょう。相続対策の場合は、相続時に現金や預貯金よりも相続税評価額が低い不動産、特に収益物件を持つことで相続税を圧縮できます。相続が発生した時点で資産が不動産であれば目的を達成できますが、相続後に売却するのか保有し続けるのかは相続人次第です。そのため、相続税の節税が投資の目的なら、ますは短期・中期での保有を考えながら、状況に応じて検討し直す必要があります。

物件の資産価値を維持・向上させる管理に務める

最終的にオーナーチェンジ物件として売却することを視野に入れている場合は、物件の資産価値を維持しておく必要があります。物件を良好な状態に保つためには、日頃の管理が必須です。管理状態が悪い物件は空室リスクや家賃下落リスクを招く可能性が上がるため、高値で売却することが難しくなるかもしれません。その逆に築年数が経過していても、きれいに維持されている物件は高値で売却しやすくなります。

物件を保有している間は適切に管理を行ってくれる管理会社に物件の管理を委託し、良好な状態で維持しておきましょう。場合によっては、時期をみてリノベーションを行うことで資産価値を向上させられるケースもあります。リノベーションを実施したからといって必ず高値で売れるとは限らないうえ、かかった費用以上に利益を出せるかどうかは分かりません。ただ、リノベーションで資産価値を向上させれば、家賃を高く設定しても入居者に選ばれる物件に生まれ変わる可能性もあります。物件や地域のニーズによっては、リノベーションを高く売るための有効な手段のひとつとして検討してもいいでしょう。

まとめ

不動産投資では、出口戦略の成否によって「答え合わせ」をすることになります。出口戦略にはいくつかの選択肢がありますが、多いのは売却です。売却するタイミングにも不動産市場の動向や減価償却期間の終了時、デッドクロスが見えてきたときなど、さまざまな時期が想定されます。不動産投資を成功させるためには、購入前から投資目的に合わせて出口戦略を立てることが大事です。出口戦略の重要性を踏まえたうえで、投資戦略を練るようにしましょう。

監修者

藤原 正明/大和財託株式会社 代表取締役CEO

昭和55年生、岩手県出身、岩手大学工学部卒。
三井不動産レジデンシャル株式会社で分譲マンション開発に携わり、その後不動産会社で収益不動産の売買・管理の実務経験を積む。
2013年に大和財託株式会社を設立。収益不動産を活用した資産運用コンサルティング事業を関東・関西で展開。
中小企業経営者、土地オーナー、開業医・勤務医、高年収会社員などに対して多様な資産運用サービスを提供している。
自社設計施工により高品質ローコストを実現している新築1棟アパート・マンション、中古物件のリスクを排除した中古1棟リノベーション物件、デジタルテクノロジーを活用した不動産小口化・証券化商品、利益最大化を実現する賃貸管理サービスなどを、顧客のニーズに合わせて組み合わせて提案できることが強みである。
資産運用領域で日本No.1の会社を目指し日々経営にあたっている。

マッスル社長としてYouTubeでも活躍中。
書籍「収益性と節税を最大化させる不動産投資の成功法則」や「収益性と相続税対策を両立する土地活用の成功法則」を発売中。

おすすめ記事

関連記事

お問い合わせ contact

経験豊富なプロのコンサルタントが
資産運用、税金対策、不動産投資ローン、老後資金、相続対策など、
皆様の様々なご相談を承ります。