不動産投資が軌道に乗り、所有する物件も複数になってくると、賃料収入もそれなりの額になってきます。そうなると、本腰を入れた税金対策が必要にもなってきます。
不動産投資以外の投資を行っていたり、金融資産・貴金属などの資産を所有したりしている方であれば、ますます対策が求められているといえるでしょう。
資産管理会社の設立は、税金対策に大きな力を発揮します。ここでは、資産管理会社の設立が向いている方、設立のメリットと注意すべきポイント、具体的な手順などを解説します。
目次
資産管理会社とは?
資産管理会社とは、不動産・有価証券・現金・貴金属などの資産を所有する個人がその資産を管理する目的として設立する会社法人を指します。
株式会社・合同会社などの形式をとるので、外見上は通常の営業法人と変わりませんが、もっぱらオーナーの資産管理のために存在しているので、営業活動は行いません。「プライベートカンパニー」とも呼ばれます。
資産管理会社の設立をおすすめしたい方
資産管理会社を設立して、メリットを活かせる人はどのような方でしょうか。代表的な4つのタイプを紹介します。
個人投資家
個人で金融投資・不動産投資を行っている方です。投資を行う上でも、法人にしたほうが税制上何かと有利なことがあります。「損益通算」と「繰越控除」などがそうなのですが、詳細は後述します。
資産運用や副業を行っているサラリーマン
資産運用や副業を行っている給与所得者にも、節税メリットがあります。主に経費計上などが理由ですが、こちらも後ほど詳しく解説します。
年収900万円が資産管理会社設立のボーダーラインといわれ、それ以上になったら節税メリットを得られるとされていますが、副業で確定申告の青色申告を経験されている方ならば、年収700万円からでもチャレンジしたほうがよいかもしれません。
資産家
一定規模以上の資産を所有している方は、資産管理会社の設立が必須になってきます。
資産家が亡くなると相続が発生しますが、相続財産には相続税がかかります。相続税には社会的な資産格差を緩和させる目的もあって、累進課税制度となっています。累進課税とは、課税額が高ければ高いほど適用される税率が上がる課税方式です。
つまり、遺された資産が大きければ大きいほど相続税額は高くなるということです。この相続対策としても資産管理会社は力を発揮します。
事業承継対策が必要な方
オーナー社長で、自社株の相続対策と事業承継対策の両方が必要な方にも、資産管理会社が便利です。
オーナー社長にとっては、相続税の問題とともにその企業の経営権の問題を考える必要があります。例えば、長男が後継者と決まっていたとしても、自社株の分割によっては経営権が分散化してしまうことも考えられます。
そこで、自社株の所有権を資産管理会社に移し、その資産管理会社の株式を相続(または生前贈与)する形をとります。この場合、後継者には普通株式を、それ以外には無議決権株式を相続(生前贈与)することで、経営権の保持が図れます。
資産管理会社を設立するメリット
資産管理会社を設立することには、数多くのメリットがあります。
税金が抑えられる
資産管理会社のメリットは、何といっても税務メリットにあります。つまり、節税になることです。
所得税と法人税のギャップ
なぜ、資産管理会社を設立すると節税になるのでしょうか。一番の理由は、個人にかかる所得税と法人にかかる法人税との間にギャップがあるからにほかなりません。
給与所得者は源泉徴収によって、事業所得者は確定申告によって所得税を納税しますが、その税率は累進課税になっていて、所得が大きいほど高率の税金がかかります。課税所得が4,000万円以上になると税率は45%になりますが、それにプラスして住民税が10%、復興特別所得税が0.945%かかります。(なお、年収2,000万円以上の給与所得者の場合は、確定申告が必要になります。)
高額所得者にとっては、「半分以上を国に持っていかれる」という重税感を感じることになるのではないでしょうか。
一方、法人はどうでしょうか。法人にかかる法人税の実効税率は本社のある所在地によって相違したり、資本金・課税所得によって違ったり、特例があったりしますが、20数~30数%となっています。
個人に適用される所得税の最高税率と法人に適用される法人税率の差分は、30%にもなります。これが資産管理会社の節税メリットの基本です。
損益通算
税率の差以外にも節税メリットはあります。法人にすると、損益通算の幅が広がることもその一つです。
個人の場合、所得は10種類に分類されます。列挙すると、①給与所得、②事業所得、③利子所得、④配当所得、⑤譲渡所得、⑥不動産所得、⑦一時所得、⑧退職所得、⑨山林所得、⑩雑所得になりますが、そのうち退職所得、山林所得、譲渡所得(土地・建物・株式の譲渡の場合のみ)は分離課税となり、他の所得と損益通算できません。
例えば、収益物件を売却して3,000万円の譲渡損失が出ても、不動産所得との損益通算ができないので、不動産所得が黒字であれば所得税を支払うことになります。
株式投資などの金融投資をされている方には、さらにメリットがあります。個人だと、上場株式投資と先物・オプション投資は損益通算ができません。それらと給与所得との損益通算もできません。上場株式投資で500万円譲渡益を出し、先物取引で1,000万円損失を出した場合でも、株式投資の譲渡益に20%の金融所得税がかかることになります。
これが法人になると、すべての投資種類が一つにまとめられます。先の例なら合算して500万円の損失になるので、この部分に関しては税金がかかりません。
個人は小さな器がたくさん用意されていて、その一つ一つに収益と損失が当てはめられるのに対して、法人は大きな器が一つだけあって、そこにすべての収益と損失が投げ込まれるイメージです。
トータルでいうと、法人のほうが大きな節税につながるのです。
繰越控除の期間が長い
所得税にしても、法人税にしても、課税所得つまり黒字分に対してかかるものです。決算上の赤字、つまり欠損金は「繰越控除」が認められているのですが、この繰越控除期間が個人と法人で異なります。
繰越控除とは、その年に生じた損失を翌年以降に繰り越して、利益と相殺していくことができる制度のことを指します。個人事業主の場合には、青色申告をしても3年間であるのに対して、法人は最長10年間の繰り越しが可能になっています。
損失と利益を長期間平準化することで、大きな節税メリットが生まれるのです。
経費の範囲が広がる
法人を設立することで、個人以上に経費として認められる項目が増えることも魅力です。
給与・日当
法人の場合は個人事業主が計上できる経費に加え、社長の給与や賞与も経費として計上することが可能です。
法人では、社長自身に支払った給与・賞与も法人の利益から控除する経費として計上することができるので、節税に有利です。ただし、給与が個人に支払われた時点で所得税がかかりますので、給与額をいくらにするかは総合的に考えて決める必要があります。
また、出張などがあった場合、個人事業主では交通費・宿泊費は経費になるものの「日当」は認められていません。これに対し、法人においては社長自身に日当を出すことができ、経費として計上可能です。この日当は実費補填と見なされるので、妥当な範囲であれば所得税もかかりません。
ただし、当該資産管理会社において、事前に「旅費規定」を作成しておく必要があります。
所得の分散効果
資産管理会社を設立しておけば、家族を会社の役員や従業員にすることができ、役員報酬・給与を支払うことができます。この家族の報酬・給与も経費計上することができます。
このように同じ世帯でも所得を一つにまとめるのではなく、家族の人数分分散することができます。所得税は累進課税制度なので、所得を一つにまとめると高額になり所得税額も高くなりますが、所得を分散することで所得税額を低く抑えることができます。
このような節税メリットを「所得の分散効果」といいます。ただし、勤務実態のない家族に報酬・給与を支払うことは、税務当局に否認されることになりますので注意してください。
融資面で有利
一般的に、個人事業主に比べて法人は社会的信用度が高いといえます。法人を設立するには登記が必要になり、商法・会社法などの法律にもとづいた運営がされますので、社会的な信用が高くなるのです。
そのため、不動産投資家が新しい収益物件の取得のために金融機関から融資を受ける際にも有利に働きます。節税という資産防衛のためだけでなく、これからの資産拡大を展望する上でも資産管理会社は極めて有効なのだといえます。
相続対策になる
資産管理会社の設立は所得税の節税だけでなく、相続対策としても有効です。
相続税の節税
収益物件を所有する不動産投資家が相続を迎えると、相続財産は主に不動産になりますが、物件の所有権を資産管理会社に移していれば、相続財産は資産管理会社の株式になります。
この株式は非上場株式なので、法人全体の資産評価にもとづいて株価が評価されます。もともと賃貸不動産は、実勢価格ではなく路線価・固定資産税評価額で評価され、借地権割合・借家権割合・賃貸割合などによって相続税評価額が決められるので、現金・有価証券などに比して有利なのですが、資産管理会社の株式はさらに評価を下げることができます。
評価を下げる方法としては、借入金を増やして純資産を減らす、役員退職金を支給する、法人向け保険商品を活用するなどがあります。
相続の手続きが簡易
相続財産が現物不動産の場合、分割協議に手間取るケースが多くなっています。協議がこじれて、相続人同士で紛争になることも少なくありません。
資産管理会社方式ですと、相続財産の分割は株式の分割で済むので遺産分割がスムーズに進みます。現物不動産を相続するには相続登記(所有権移転登記)が必要になりますが、それも必要ありません。登記にともなう登録免許税、司法書士報酬も不要になります。
また、年間110万円以下の贈与税に当たらない非課税枠(暦年贈与)で、毎年少しずつ株式を将来の相続人に譲渡することも可能です。
資産管理会社を設立した際のデメリットは?
メリットの大きい資産管理会社の設立ですが、デメリットも存在します。
設立にともなうコストが発生する
資産管理会社を設立するには、登記などにコストがかかります。
登記は司法書士に依頼することが一般的なのですが、株式会社で20~30万円程度、合同会社で10万円程度準備しておく必要があります。司法書士に依頼せず、すべて自力で行うことも可能ですが、相当面倒な事務手続きを必要とします。(自力で行う場合でも、登録免許税はかかります。)
また、法人を設立すると毎年法人住民税がかかります。法人住民税の均等割はたとえ決算が赤字になっても支払う義務があります。最低額は7万円です。
個人が資産を使用するのはNG
法人というのは社会的な一つの人格なので、個人と資産管理会社は基本的に別人格です。そのため、会社が保有する金銭を個人が自由気ままに使うことはできません。社長が使用するものであっても、会社の経費に当たるものでなければならないのです。
会社から個人へ資金を移すためには、役員報酬や配当などの方法をとる必要があり、そこには当然所得税がかかります。
事務作業が発生する
法人を設立すると、年に1回決算報告書と法人税の確定申告書を提出する義務があります。決算書作成は煩雑な事務作業になりますので、通常は税理士に依頼することになります。税理士の報酬は、決算書作成のみで15万円程度、顧問契約を結ぶ場合は年間20~30万円程度を見込んでおく必要があります。
また、日々の帳簿付けも地味な作業ですが、必ず行わなければいけません。
資産管理会社の設立手順 5STEP
それでは、実際に資産管理会社を設立する手順を具体的に解説しましょう。
会社設立情報の決定
まずは、会社情報を整理・決定します。決めておくべき内容は、以下の通りです。
・社名 … 商標登録されている会社名などは不可。
・会社形態 … 株式会社、合同会社など。
・本店所在地 … 法的な制限はない。自宅を指定する方が多い。
・出資者 … 基本的には本人。
・資本金の額 … 1円以上の金額で設定。
・決算月 … 自由に設定可能。
印鑑の作成
はじめに購入するものとしては、法人の印鑑があります。デジタル・トランスフォーメーションが進められている昨今ですが、いまだ印鑑は必須になります。実印(代表者印)・社印(角印)・銀行印の3つで1セットになります。
正式な契約の際に使用する会社の実印が代表者印です。これは、法務局への登録が必要となります。
定款の作成・認証
定款とは、会社を設立する時に必須となる書類です。設立時に定める企業の根本原則で、「会社の憲法」とも呼ばれています。
会社形態が株式会社の場合、定款を作成後認証手続きが必要になります。認証は、設立する会社の本店所在地を管轄する公証役場で行います。
定款に記載する項目には、「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」の3つの種類があります。
絶対的記載事項
絶対的記載事項とは、法律上必ず記載しなければいけない事項で、この記載がないと定款が無効となるものです。
具体的には、①事業の目的、②商号、③本社所在地、④資本金額(出資財産額)、⑤発起人の氏名と住所の5つがそれになります。
相対的記載事項
相対的記載事項とは、法律的には記載しなくてもいいものの、記載がないとその事項については効力が認められない事項です。
一例としては、株式会社の「株券を発行する旨の定め」があります。株式会社であったとしても、定款に「株券を発行します」と記載されていない限り、株券を発行する義務はないものとされます。
任意的記載事項
任意的記載事項とは、定款に記載しなくても他の文書などで明確にすることで、効力が認められる事項です。株主総会の開催規定や役員報酬に関する事項などがあります。
登記申請書類の作成・提出
定款の作成など事前準備が完了したら、法務局へ登記申請するための書類を準備します。準備する書類は以下になります。
・登記申請書
・登録免許税納付用台紙
・定款
・発起人の決定書
・設立時取締役の就任承諾書
・設立時代表取締役の就任承諾書
・設立時取締役の印鑑証明書
・資本金の払込みがあったことを証する書面
・印鑑届出書
・「登記すべき事項」を記載した書面、または保存したCD-R
これ以降の登記手続きは司法書士が代行してくれます。用意すべき書類について、不明な点は司法書士に問い合わせましょう。
合同会社であれば3日程度、株式会社であれば10日程度で登記が完了します。
設立登記後の手続き
法人の設立登記完了後、必要な届出は大きく分けて以下の5つがあります。
税務署への届出
税務署へは、法人設立届出書、青色申告の承認申請書、給与支払事務所等の開設届出書、源泉徴収税の納期の特例の承認に関する申請書を提出します。
各都道府県税事務所・市町村役場への届出
都道府県税事務所の法人事業税課(名称は都道府県ごとに異なる)と市町村の法人住民税担当部署へ、法人設立届出書を提出します。
年金事務所への届出
健康保険・厚生年金保険新規適用届、健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届、健康保険被扶養者(異動)届(扶養者がいる場合)を日本年金機構へ提出します。
労働基準監督署・公共職業安定所への届出
従業員を雇う場合は、労働保険関係成立届など複数の書類を所轄の労働基準監督署、または公共職業安定所に提出します。
法人口座を開設する
法務局にて登記事項証明書や印鑑証明書を取得し、会社の名義で預金口座を開設します。
各項目の詳しい手続きについては、税理士や司法書士、行政書士などに相談して、おまかせするようにしましょう。
まとめ
不動産投資を行っている方や資産家の方には、常に問題になる税金問題。
個人でも節税はできますが、できることには限界があります。
資産管理会社を設立すれば、さまざまな節税対策を講じることが可能になります。
資産管理会社の設立・運営は煩雑なところがあるのも事実です。法務、税務に長けていないと上手に運営できない面もありますので、専門家の協力は必須となります。税理士、司法書士、行政書士とともに不動産の専門家ともパートナーシップを結びましょう。
大和財託の不動産投資コンサルティングサービス
大和財託では、これから不動産投資を始めようとお考えの方、現在すでに一棟アパートや区分マンションをご所有の方にも無料で投資相談を行っています。
当社は50を超える多数の金融機関と太い信頼関係を構築し、これまでたくさんのお客様に有利な条件での借り入れを実現してきました。
不動産投資について学ぶ時間がとれない方も安心してお任せいただけるよう全面的にサポートいたしますので、ぜひお気軽にご相談ください。
「プライベート相談」にお申込みいただいた方には、お客様に最適な資産運用の方法をご提案いたします。
「プライベート相談」は、東京、大阪会場に加えてオンラインでも面談を行っておりますので、全国から参加いただけます。
大和財託の不動産投資セミナー
大和財託では、不動産投資で失敗しない為の原理原則やノウハウ、過去の事例を一人でも多くの方にお伝えしたいと思い、オンラインにて無料で不動産投資セミナーを開催しております。
不動産投資の指標についても詳しく解説していますので、さらに理解を深めたい方はぜひご利用ください。
セミナー後の強引な営業は一切ございません。
プライベート相談はまだちょっと早いかも…という方、これから不動産投資を始める方、これから不動産投資のゴールを考えたい方も当社のコンサルタントがサポートいたしますので、ぜひお気軽にお申込みください。
監修者
藤原 正明/大和財託株式会社 代表取締役CEO
昭和55年生、岩手県出身、岩手大学工学部卒。
三井不動産レジデンシャル株式会社で分譲マンション開発に携わり、その後不動産会社で収益不動産の売買・管理の実務経験を積む。
2013年に大和財託株式会社を設立。収益不動産を活用した資産運用コンサルティング事業を関東・関西で展開。
中小企業経営者、土地オーナー、開業医・勤務医、高年収会社員などに対して多様な資産運用サービスを提供している。
自社設計施工により高品質ローコストを実現している新築1棟アパート・マンション、中古物件のリスクを排除した中古1棟リノベーション物件、デジタルテクノロジーを活用した不動産小口化・証券化商品、利益最大化を実現する賃貸管理サービスなどを、顧客のニーズに合わせて組み合わせて提案できることが強みである。
資産運用領域で日本No.1の会社を目指し日々経営にあたっている。
マッスル社長としてYouTubeでも活躍中。
書籍「収益性と節税を最大化させる不動産投資の成功法則」や「収益性と相続税対策を両立する土地活用の成功法則」を発売中。